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声だけでは分からなかった理沙の険しい表情を見た。
それでいても、理沙に対して優しい言葉で返すことはない。
「お、おぅ。長く濃密な夜を過ごそうと…ちゅきちゅきらぶりーちゃんじゃけ」
「そういうことだけは言葉にするよね」
「いやいやいや。そうでもないやろ?」
「そうでもあるよ…じゃ」
「ちょっ!え?もう帰るん?明日の朝ごはんは?」
「知らん。帰る」
「マジで?」
啓斗がそう聞き返すが、これ以上言い合っても、話が進まないと思った理沙は、机の上に置いたスマホをポケットにしまい、啓斗ではない方を見た。
「もう遅いし」
壁掛け時計を見ながら指差す理沙。
理沙と一緒に選んだ壁掛け時計だったが、正確に時間を伝えるこいつが、なんとも憎たらしい。
「いやいやいや。夜はまだまだ、これからじゃろ。俺、明日休みなのに」
「あのね。私、ケイトの都合だけで生きてないんだよ」
こういう男であることは知っていての交際。
だからこそ理沙には引けないところがある。
「ねぇケイト。自分が可愛いのは分かるけど、もっと私のこと考えてよ」
啓斗も自覚しているところがあり、すこし心が痛んだ。
「ちょ、言い方…ま、理沙の事は考えとるよ」
「じゃ、駅まで送るくらいできるよね?」
「ホンマに帰るん?」
そう聞いた時には、既に扉を開け、片足は外へ出ていた。
「泊まるのはまた今度」
玄関を出ていく理沙。予定が狂ったとあり不機嫌極まりない表情で後を追う啓斗。
理性よりも男としての本能が勝っていた為、理沙に帰られることは止めたかった。
しかし、一度同じような展開で別れているため、二度も同じ過ちを犯してはならないという思いはあった。
「ま、今日は、送ってく…今日は」
靴を履き、既に外に出ている理沙の後を追う啓斗。
太々しく、捨て台詞のような言葉を吐きながらだったが、それが理沙には嬉しかった。
「へぇ~。ケイトも成長してんだね」
「ん?」
「前は、自分さえよければ、私の事なんて考えなかったもん」
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