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「ま、まぁ…それが原因で離れた時あったけぇな…気を付ける」
申し訳なさそうに俯いた啓斗の顔は、理沙が思うより深刻な表情で、それが思っていた表情と正反対だったので理沙は首を振った。
「いい。やめて昔の話…なしだわ。さ、駅まで歩こ」
「ゆっくり。出来るだけゆっくり」
そういう啓斗の表情は、どこか切なげであり、その表情を理沙は嫌った。
笑顔が見たい。不機嫌だった理沙だったが、そんな表情の啓斗を見たくはない。
少し話題を変えれば、表情も変わるかもしれないと、茶化してみた。
「そうね。お腹いっぱいで、早くは歩けないよね~」
「そうじゃなくて…早く着いたら、一緒に居る時間減るやろ」
「お!ケイトのくせに、ちょっとロマンティック」
「くせにって…」
「ふふふ。だって初めてじゃない?そういうこと言うの」
そうは言ったが、啓斗に思いださせようとする意図があった。
その思いは、見事なまでに伝わる。
「いや。告白した時って、それなりのこと言ったじゃろ?」
「そうでもなかったよ…ま、普通」
「普通って。嬉しかったとかキュンとしたとか、そういうのは?」
「ま、嫌だったら付き合ってないよ」
素直に答えないところは理沙も啓斗と同じだ。
自分の難癖は分かりにくいという。啓斗は少し顔をしかめ理沙を見る。
「なんなんそれ?あ、ツンデレってやつ。このあとデレデレしちゃうやつ?」
「ふふふ。どうかねぇ~」
「は?何?笑うとこ?」
「やっぱり気付いてないね。これって、ケイトの返事の仕方だよ」
「ん?」
「私の料理……普通だったもんね」
「あ!」
「期待してた言葉が返ってこないと残念じゃない?」
「まぁ、確かにそうやな。俺、分かっとらんな」
神妙な面持ちで理沙の言葉を受け止め、顎に手を当て何度も頷き、何もかもが足りていなかったことを悔いる。
その仕草に、反省はしているなと感じた理沙は笑顔で返す。
「私はね、嬉しかったよ。ケイトが私じゃなきゃダメだって言ってくれて」
「ちょっ!覚えてるやん。それ、止めれ」
「なんで?」
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