第1話

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「ま、まぁ…それが原因で離れた時あったけぇな…気を付ける」  申し訳なさそうに俯いた啓斗の顔は、理沙が思うより深刻な表情で、それが思っていた表情と正反対だったので理沙は首を振った。 「いい。やめて昔の話…なしだわ。さ、駅まで歩こ」 「ゆっくり。出来るだけゆっくり」  そういう啓斗の表情は、どこか切なげであり、その表情を理沙は嫌った。 笑顔が見たい。不機嫌だった理沙だったが、そんな表情の啓斗を見たくはない。 少し話題を変えれば、表情も変わるかもしれないと、茶化してみた。 「そうね。お腹いっぱいで、早くは歩けないよね~」 「そうじゃなくて…早く着いたら、一緒に居る時間減るやろ」 「お!ケイトのくせに、ちょっとロマンティック」 「くせにって…」 「ふふふ。だって初めてじゃない?そういうこと言うの」  そうは言ったが、啓斗に思いださせようとする意図があった。 その思いは、見事なまでに伝わる。 「いや。告白した時って、それなりのこと言ったじゃろ?」 「そうでもなかったよ…ま、普通」 「普通って。嬉しかったとかキュンとしたとか、そういうのは?」 「ま、嫌だったら付き合ってないよ」  素直に答えないところは理沙も啓斗と同じだ。 自分の難癖は分かりにくいという。啓斗は少し顔をしかめ理沙を見る。 「なんなんそれ?あ、ツンデレってやつ。このあとデレデレしちゃうやつ?」 「ふふふ。どうかねぇ~」 「は?何?笑うとこ?」 「やっぱり気付いてないね。これって、ケイトの返事の仕方だよ」 「ん?」 「私の料理……普通だったもんね」 「あ!」 「期待してた言葉が返ってこないと残念じゃない?」 「まぁ、確かにそうやな。俺、分かっとらんな」  神妙な面持ちで理沙の言葉を受け止め、顎に手を当て何度も頷き、何もかもが足りていなかったことを悔いる。 その仕草に、反省はしているなと感じた理沙は笑顔で返す。 「私はね、嬉しかったよ。ケイトが私じゃなきゃダメだって言ってくれて」 「ちょっ!覚えてるやん。それ、止めれ」 「なんで?」
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