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「改めて言われると照れくさいんよ」
「いいじゃん」
「昔の話なしって言ったくせに……」
未だ照れくさそうに顔をそむけながら歩く啓斗に理沙は聞いた。
「でさ、よりを戻すと思ってた?」
「さっきの話、戻んなや」
「いいじゃん。ちょっとだけ聞きたかった」
「ま、正直半々。少しだけ根拠のない自信があったけぇ。店長も応援してくれ
ちょったし」
「何それ?」
「誰かの応援があるって心強い」
「あ、うん。それは分かる」
「ちょっと離れてみて、客観的に考えてみて…離れても、別れても、それでも好きな人っているじゃろ?」
「目の前にね」
即座に答え、微笑み返す理沙。
「お互いにそうだったんよねぇ」
「結局、付き合ったもんね。それはあるかもね」
「じゃろ?」
同意を求め理沙の方を見たが、理沙は嬉しそうに微笑んだまま遠くを見つめていた。
啓斗の部屋から駅までは歩いて10分足らずだ。
その道も、半分以上歩いているので、話せる時間も距離同様短くなる。
何かを思い、遠くを見つめる理沙。
その思いが分からないまま帰らせてしまうのは啓斗としては不本意だったが、名前を呼び、立ち止まらせられたのは、駅に着いてからだった。
「理沙」
「なに?」
ふと啓斗の方を見た理沙の表情が、格別に愛おしく見え、何を考えてたんだと聞こうと思っていたその言葉さえ出なかった。
「いや、あの…」
「どした?」
首を傾げ、聞いてくるその仕草も尚、溜まらなく愛おしく感じた。
特別考えたわけではない。自然と啓斗の口から出た言葉だった。
「あ、あのさ…結婚しようや」
言われた理沙としては、頭の片隅でいつも考えていたが、それでも驚きはあった。
だが、変な間と見たことのない感情が混乱している啓斗の表情を見ると、この問いに関しての答えには、微笑み返し、啓斗の肩を軽く小突いた。
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