第2話

2/7
前へ
/32ページ
次へ
「希子ちゃん。ホンマにおらんくなるんかぁ……」 享はボソッと呟いた。 「俺に聞くなや。希子ちゃんのことはお前の方が知ってるじゃろ?」  啓斗に聞いたわけではない。ただ、いなくなって欲しくないという思いが口から出ただけだ。 「いや。…おらんようになるのは寂しいって言うとるんよ」  女々しいなどとは思わなかった。 もし、自分が享の立場だとしたら、同じことを言っていただろう。 そう思うと、共感した言葉が自然とこぼれた。 「そうやね。寂しいな」 啓斗の言葉に、享から溜息が漏れる。 「はぁ~。もう一か月いや、せめて一週間、先延ばしにならんかな?」 この言葉にも共感できた。 だが今度は、享の背中をバンッと叩き、背筋を伸ばさせた。 「分かってたことじゃろ?プレゼントまで買ったんじゃけ、最後くらいビシッと!」 「そやな。彼女と別れるんじゃないし、あんまり深く考えんとこ」  此処までの話の流れで、希子が享の彼女ではないことは言うまでもないことだ。 希子というのは、享が推しているガールズバーの女性だ。 享の強い推しも空しく、この日で店を去ることになっている。 もう少し時間がかかるだろうと考えていた買い物も直ぐに済み、買い物を終えると、ハト公園に戻り二人並んでベンチに座った。 「開店まで時間あるけぇ、ちょっと話そうや」 「何を?」 「最後じゃろ。カッコつけたいんよね」  そう言った享の凛々しい顔に、頷く啓斗。 「お?いいね。リハしとく?」 「おん。頼む」 ハト公園の一画は、啓斗と享によって、模擬ガールズバーのような雰囲気になる。 「じゃ、俺。希子ちゃんやるから、店入ってきて」 「カランコロンカラ~ン。あ、一人ですけど……」 「はい。空いてる席どうぞ~。って、おい!誰が喫茶店漫才の練習しとんねん!」 「流石だわケイト。俺のボケを一瞬で理解して、さらに関西弁でノリ突っ込み」  満面の笑みの享に対して、冷めた表情で返す啓斗。 自分の真面目さを馬鹿にされているように感じ、耐えられない。 「いや。そういうのいらんから……誰のためにやっとん!」 「ごめん。ちゃんとやるわ」 「マジそれな」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加