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「希子ちゃん。ホンマにおらんくなるんかぁ……」
享はボソッと呟いた。
「俺に聞くなや。希子ちゃんのことはお前の方が知ってるじゃろ?」
啓斗に聞いたわけではない。ただ、いなくなって欲しくないという思いが口から出ただけだ。
「いや。…おらんようになるのは寂しいって言うとるんよ」
女々しいなどとは思わなかった。
もし、自分が享の立場だとしたら、同じことを言っていただろう。
そう思うと、共感した言葉が自然とこぼれた。
「そうやね。寂しいな」
啓斗の言葉に、享から溜息が漏れる。
「はぁ~。もう一か月いや、せめて一週間、先延ばしにならんかな?」
この言葉にも共感できた。
だが今度は、享の背中をバンッと叩き、背筋を伸ばさせた。
「分かってたことじゃろ?プレゼントまで買ったんじゃけ、最後くらいビシッと!」
「そやな。彼女と別れるんじゃないし、あんまり深く考えんとこ」
此処までの話の流れで、希子が享の彼女ではないことは言うまでもないことだ。
希子というのは、享が推しているガールズバーの女性だ。
享の強い推しも空しく、この日で店を去ることになっている。
もう少し時間がかかるだろうと考えていた買い物も直ぐに済み、買い物を終えると、ハト公園に戻り二人並んでベンチに座った。
「開店まで時間あるけぇ、ちょっと話そうや」
「何を?」
「最後じゃろ。カッコつけたいんよね」
そう言った享の凛々しい顔に、頷く啓斗。
「お?いいね。リハしとく?」
「おん。頼む」
ハト公園の一画は、啓斗と享によって、模擬ガールズバーのような雰囲気になる。
「じゃ、俺。希子ちゃんやるから、店入ってきて」
「カランコロンカラ~ン。あ、一人ですけど……」
「はい。空いてる席どうぞ~。って、おい!誰が喫茶店漫才の練習しとんねん!」
「流石だわケイト。俺のボケを一瞬で理解して、さらに関西弁でノリ突っ込み」
満面の笑みの享に対して、冷めた表情で返す啓斗。
自分の真面目さを馬鹿にされているように感じ、耐えられない。
「いや。そういうのいらんから……誰のためにやっとん!」
「ごめん。ちゃんとやるわ」
「マジそれな」
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