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「じゃけど、ここでリハしても想像の希子ちゃんじゃろ、出たとこ勝負にならんか?」
「ま、そうじゃけど、カッコつけたいなら、それなりのセリフいるじゃろ?」
「この流れで、それっぽいセリフ考えちょくか」
「最後じゃけ、ダサいくらいカッコつければ?」
「なんなんそれ?ダサいんかカッコいいんか分らんやろ」
「ま、ようするに、熱意。ハートだよハート。ハートトゥハート」
「お、おん。今のケイトが一番ダサい」
「ダサ…え?ま、やろ。リハやろ」
「なんでお前の方が必死なんよ」
結局、啓斗の熱意に押し切られ、寸劇のような喜劇のようなリハーサルは終わった。
すでに街は、夜の顔に変貌しており、啓斗と享は希子の店へと急いだ。
享は希子の店に出向くのは、今日で3日連続となる。
通いなれた店。自分の居場所である店に入るなり、希子の元へ一目散の享。
「キョウく~ん。三日連続!ラストまでありがとね~」
「おう。希子ちゃん。ホンマに今日で店辞めるん?ちょっとキビくなるわ」
「キビ?」
「あぁ、生活というか、精神的にキビしくなる」
「ははは。それ言うなら、寂しいじゃないの?」
「寂しいよりキビい……じゃね」
ここまではリハーサル通り。
ここからは、希子の出方で、リハーサル通りいかないかもしれない。
「この店大好きだけど、夢があるからね。それにチャレンジするんよ」
「夢って、この前言ってたやつやろ?」
「そ。夢は叶えるためにあるからね」
「うん。頑張って夢を叶えてな。これ、最後じゃけどプレゼント」
「えっ?あ、ありがと」
「じゃ、応援してるから、頑張ってな」
席に着くことなく、扉の方に向きを変える享の肩に希子は、優しく触れる。
「あれ?帰っちゃうの?ラストまでいてくれないん?」
心が揺れる。推しに哀願されて断るなどという選択肢はない。
そう思っていた。さっきまでは。
「う、うん。今じゃないと帰れんくなるけぇ」
希子は思いもしなかった享の言葉に驚いたが、店に来ているときの笑顔とは程遠い、真剣な表情に、それ以上引き止めなかった。
「そっか…そだね。分かった。ラストの日までありがとね」
閉店まで店に居座り、最後の最後まで希子と楽しく話すというリハーサルを啓斗としていた。
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