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鳥 博士をナンパ
私はウオーキングマシンの走行速度を5キロに設定した。
次に迷わずスタートボタンを押す、右後方から人の気配を感じたのはその瞬間だった。
「これから5キロも歩くんですか?」
やっぱりか⁉ 私のタッチパネルを覗き込むその男の正体は私の友人だった。
「歩く?・・なんで5キロも? そんなん無理に決まってるやん! この高齢者の私が5キロも⁉ 歩ける筈ないやん⁉」
「冗談で~す!」
私も挨拶のつもりで呟いた、いつものセリフだが。
「もう終わったん?」
「俺か・・俺はもう早よーに終わってます。 そらぁ一時間も前から来てるんやで、それよりそろそろ行こか⁉」
「うん、行こ! このマシン直ぐに終わらせるから先にお風呂入ってて」
私は既に4階のプールで1キロほど泳ぎ採暖室でしっかりと体を乾かしてきたところだ。だから今日のお風呂はパスするつもりである。
先にお風呂に向かった彼は2年前にこのジムで知りあった友人だ。
今では冗談も話せる間柄に進化している。私より一つ上で今年68歳になる。
なんでも現役時代はお惣菜屋さんを営んでいたらしい。
そう言えば彼との内緒話は成立しない。そう、広いスポーツジムの端っこで彼が誰かと話していると殆どの仲間は、姿ではなく彼の声だけでその存在を知ることが出来る。それほど彼の声はよく通る。
きっと現役時代は『らっしゃい、いらっしゃい、美味しいでー安いでー』なんて叫んでいる様が想像できる。
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