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弾き語り
そんな或る日のことである、遠くの県に嫁いでいる娘と家内がいつものように他愛のない話をしていた。通話料金が安価なのか無料なのか私には縁のない何とかといったアプリを利用しているようだ。
「お父さんと換わろうか?」
言うが早いか私に携帯を預ける家内。家内もほぼ毎日のように掛かってくる娘の電話にネタが尽きてしまったみたいだ。
「あぁ奈々子か? 元気しとるか? 感染防止は出来てるか?」
など私も家内同様、とりとめのない話の続きを請け負ってしまった。
「カラオケ行ってんの?」
「今はアカンな、こんな緊急事態宣言ではな・・カラオケのママさんからのメールの様子では辞めはるみたいやったな」
娘がまだ独身の頃は家族そろって食事なんかに出かけると、締めはいつもカラオケだった。
「そう言うたらこっちの方のスポーツジムも緊急事態宣言で休館してるみたいやね」
「休館やったらまだエエけど、こっちの営業所は廃業やて、これじゃ体までオカシイなってしまうわ、長生きはしたくはないよね」
「またそんなこと言う・・お父さん昔、ギター弾いてなかったっけ?」
「なかったっけ?って お前、段々関東被れしてきたな⁉」
「ギターの話してんのに、話はぐらかさんといて」
「あぁ、ギターな? うん、あれはな、今やから言うけど、あれは弾いてんじゃなく弦を撫でてただけや、それにリフォームした時、工務店に処分してもろたからもう在れへんわ!」
「新しくギター買ったら!」
「弾かれへんのに?」
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