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三日坊主
このようなたわいもない話の中で娘が言ったある一言が、いつまでも私の脳裏に焼き付いていた。
「お母さん」
『お母さん』って居間でノートパソコンに向かってゲームに夢中の家内のことだ。
「ん?・・なに」
「ギター買ってもエエ?」
私にすれば大事な相談をしているつもりなんだが・・家内の目線はディスプレーに奪われたままだ。
「ふ~ん・・ギターなんか買って何するのん?」
ゲームが一段落したのか?・・いや聞こえていて私をじらしているつもりか、ようやく話の重大さに気づいたのだろうか?
「まさか奈々子が言ってた何とか言うんと違うやろね⁉」
「ピンポン、その弾き語りって言うやつや、やってみたくなったんや。
このままやったらなんか自分が潰れてしまいそうな気がするねん。三日坊主、大いに結構、一日空いたんなら翌日からまた三日続けたらええやん。
自宅待機の規制期間やからこそ、そんな試行錯誤も大切や思えへんか?
いつもテレビ当番だけしとると、儂一人だけが社会のはぐれ刑事になってしまいそうや」
これまでこのような相談事には殆ど反対しない家内だった。むしろ買い物が好きな人で逆に後押ししてくれていた。でも今回だけは却下されそうな気がする。
習い始めのギターの音色を想像すると、周りの人にどれだけストレスを与えるか、当事者の私だって恐怖を感じる。
「お父さんさすがにエエこと言うた! 辛かったんやね・・
買ってもエエよ、けど・・やっぱり三日坊主だけは止めてよね」
私が娘に言われた『一言』って言うのは『自分で弾き語りすればむしろカラオケより楽しめるんちゃうの⁉』の長い一言だった。
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