どういたしまして

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どういたしまして

 そこにはギター本体の他に『初心者練習キット』のシールが張られたビニール袋もあった。どれも使い方すらイメージ出来ない付属品が20種類余り収められていた。  『これはピックでしょ、これは張替え用の予備の弦、これは初心者ガイドブック、えっ!ハーモニカまで? 何か悪いね・・こんなにもサービスしてもらって』って一人で呟いていた。 {いいえ⁉ どういたしまして} 『えっ、今、どういたしましてって、若い女性の声が聞こえた?・・そんな筈無いよな』  最初空耳だと私は無視した。というか心の動揺を隠したかったと思う。 次にお目当てのギター本体のネックのあたりを左手で掴みボディーを右の脇に抱えた。 『こんな握りで方だったかな?・・いやこれじゃ脇が甘いかな?』 {痛いじゃないの! ちょっと脇に力が入り過ぎです!} 「あっそう、ゴメン⁉⁉⁉ えー!・・それよりなに?このギター? やっぱり喋るんだ⁉」  その女性の声はギターに丸く空いた穴(サウンドホール)の奥から聞こえているみたいだ。 すこしリバーブ掛かったように聞こえるのはその共鳴の所為なのか。  私は抱えているギターを持ち変えるとそっとフロアーカーペットの上に寝かせた。 ・・・・・  何も言わなくなった。無音の静けさが怖くなった私は恐る恐る声を掛けてみた。 「ぁあなたはギターの中に居るんだよね?・・もしかしてギターの精霊(せいれい)なのかな?」 {ギターの中に居るのは確かよ、でも精霊って意味が分かりません}  『男って馬鹿だよね』いや世の中の男性全てっていう意味じゃなくて私事の話なんです。 このサウンドホールからの声がもし中年男性の声だったとしたら 『母さん大変だ!』って慌てて逃げだしたかも知れないのに?
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