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冬になり、ミュージカル研究会の公演が幕を開けた。
マイとタクミは観客として見に行った。
ずっと舞台に立っていたタクミは、ミュージカル研究会の公演を客席から見るのは初めてのはずだ。
(どんな気持ちで見ているんだろう)
マイは時々タクミの方に視線をやり、横顔を見ては考えた。
⁂
「二人とも打ち上げに来てよ」
かつての仲間たちが、マイとタクミを誘ってくれた。
出演者たちは、タクミの感想とアドバイスが聞きたいようだ。
折角だからと、二人は打ち上げに参加した。
⁂
打ち上げは盛り上がり、二次会のカラオケにも一緒に行くことになった。
タクミは後輩たちに「歌って欲しい」とせがまれる。
「しょうがないなぁ」なんて言いながら、タクミはマイクを握った。
マイが、タクミの歌う姿を見るのは久しぶりだった。
新歓祭りの日、初めてタクミを見た日のことが鮮やかによみがえった。
(そうだった。タクミさんが一番輝くのは、歌っている時だった)
気づけば、マイの目から涙がこぼれていた。
タクミはカンパニーの誘いを断ったものの、気持ちは断ち切れないでいることを、マイは知っていた。
本当は先輩が新しく立ち上げるカンパニーで、演じてみたいのだ。
(タクミさんのことを一番よく分かっているのは、私じゃない)
帰り道で、背中を押そうとマイは決めた。
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