3人が本棚に入れています
本棚に追加
タクミの家に彼女として行くのは初めてで、マイは幸せいっぱいだった。
勝手に顔が、にやけてしまう。
部屋に入ると、以前にはなかったはずの書類の山に遭遇した。
その中に、大学の校章が入った葉書がある。
やっぱり、いつも目にしているマークには注意が向くらしい。
「大学からのお知らせって、メールで来ますよね?葉書が来るって、どういう場合なんですか?」
「大学から何か来てるの?ちょっと、何が書いてあるか見てくれない?ポストがあふれているのが見えたから、とりあえず全部、ごそっと部屋に持って入ったんだけなんだ」
マイは郵便物には目を通さないと落ち着かないタイプ。
放っておけるタクミを凄いと思いながら、葉書を読む。
「大学の図書館からです。借りた本を至急、返しなさいって。メールを無視するんじゃないって、怒ってますよ」
「本?返してない本なんてあるの?」
そこから、二人がかりの大捜索が始まった。
色んなものをかき分け、お目当ての本を探し当てるまで、3時間はかかった。
途中、思わぬものを目にして、マイは何度か小さな悲鳴をあげた。
本を探すのは肉体労働だった。
重い物も動かさなければ、その下を確認できない。
その夜、疲れたタクミはぐっすり眠っていた。
他人が部屋にいると眠れないはずのタクミの無防備な姿を見て、二人の距離が縮まったとマイは感じた。
⁂
翌朝、先に家を出たタクミは本を持っていかなかった。
鍵を預けてくれて嬉しかった気持ちは、置きっぱなしなの本を見ると、呆れる思いに変わってしまった。
(あんなに大変な思いをして、探し出したのに)
仕方なく、マイは本を自分のカバンに詰めた。
図書館へ行って、本を返す。
カウンター係に叱られるれることはなかった。
マイが延滞の本人でないことは、分かっているみたいだった。
だけど、しっかりと63円を請求された。
マイは図書館の本を延滞したことがない。
葉書で督促が来ると、郵送代を払うルールなんて知らなかった。
マイはケチではないが、手数料とか延滞料とか利子とか、手元に残らないものにお金を払うのはもったいないと思っている。
タクミのズボラな性格はよく分かった。
これからは、彼女である自分がしっかりしようと決意した。
最初のコメントを投稿しよう!