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マイがミュージカル研究会をやめても、タクミとの仲は変わらなかった。
元々、ミュージカル映像を一緒に見たりすることはあっても、ミュージカルについて語り合ったりすることはなかった。
マイにはミュージカルに対して持論がない。
二人の間で熱量が違うことはお互いに分かっていたし、そこには触れないようにしてきた。
だから、共通の話題からミュージカルが消えても、二人の関係に変化はなかった。
マイが2年生になって履修科目を決める時、出来るだけタクミと同じ授業を取りたいと思った。
放課後にお互いの家を行き来しているけれど、授業中だって隣に座っていたい。
「一緒の授業にしたいです」
というマイの申し出に対し、タクミは「どっちでもいい」寄りの「賛成」だった。
まずはお互いの履修状況表を見せ合って、マイはタクミが「どっちでもいい」と思った理由を知る。
タクミは全然、単位を取れていなかった。
そもそも授業に出ていない。
どうやら単位を取ることに興味がないらしく、だから「どっちでもいい」だったらしい。
「このままだと4年で卒業できないですよ」
と言うマイに対して、タクミは何も考えていないようだった。
留年しても良いと思ってるわけじゃない。
卒業しなくても良いと思ってるわけじゃない。
ただただ単位が足りない事実に向き合わないので、危機感を覚えないらしい。
(なるべく一緒の授業に出れたら嬉しいなぁ)と思っていたマイの考えは、ここで変わった。
『タクミさんに単位を取らせなければならない』
マイはほぼ強制的に、自分と同じ授業を登録させて、タクミの時間割を作った。
すぐにサボろうとするタクミの手を繋いで、教室に連れて行った。
公演前になると授業に出られないタクミのために、バレたらまずいフォローをした。
文体を変えて、マイが二人分のレポートを書くこともあった。
⁂
ミュージカル研究会にいた頃は、タクミは経験を授ける側で、マイは教えを乞う側だった。
だけど二人の間からミュージカルがなくなると、しっかり者のマイが世話を焼き、ルーズなタクミが面倒をみてもらう関係になった。
バイトをしているマイの方がお金に余裕ができて、タクミに奢ってあげることも多くなった。
二人の仲が良いことに変わりはなかったけど、パワーバランスは変化した。
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