【第一部】第1章 宵闇の逢瀬②

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 宵闇は神の身体を不本意ながら手に入れて、その姿のまま此処まで来てしまった。だから、村の住人たちは彼が宵闇だと気がつかなかったのだ。見知らぬ者が堂々と村に来て、堂々と家に侵入しようとしている……そう、彼らの目には映ってしまった。  それ故の殺気、それ故の警戒心。  つい先程迂闊な行動は碌なことを招かないと察したばかりなのに、またしてもやってしまった。精々突っ込みを入れなかった自分を褒めてやりたい。あそこで突っ込んでいたら、大惨事だ。後々の同族との交友関係に響くことは間違いない。 「えっと、何て言うか……その、俺、宵闇なんだ」 「はあ? 嘘つくならもっとマシな嘘つけ」  しどろもどろになりながら告げた宵闇に、煌夜はきっぱりと突き返した。まともに話を聞いてくれる様子ではない。  この場を切り抜ける手立てなど全く考えていなかった。思いに耽ろうにも背後が気になって仕方がない。宵闇の後ろで村の住人たちが陰から彼を睨みつけているのだ。鬼ではない者が村に紛れ込んできたと怒っているに違いない。背後の彼らよりは目の前の煌夜の方が、幾分か話が通じそうだと自分を奮い立たせて、煌夜を見据える。 「じゃあ、お前には俺が人間に見えるのか?」 「え、そりゃ人間に決まって……あれ? 人間……じゃない……? ってか、それ何? オレたちと同じ……なようで、何か……違う」  煌夜はうろたえる。じっくりと目の前の宵闇と名乗った青年を見ると、青年は自分たちと同じ鬼の気配と、何かもっと別な強い気を纏っている。少なくともこれは間違いなく人間ではない。 「……マジで宵闇なのか……?」 「嗚呼、そうだ」
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