【第一部】第3章 不穏の再来⑤

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【第一部】第3章 不穏の再来⑤

   * * *  散らばった瓦礫の中央に、石でできた大きな机のようなモノが一つ置かれている。机の周辺だけは何故か瓦礫が一つもなく、机に壊れているところは見当たらない。まるでそこだけ何かに守られているかのように。 「はあ、はあ、はあ」  宵闇は立ち止まって荒い呼吸を整える。此処は宵闇と煌夜が生まれた地だ。どうして此処に来たのかは分からない。ただ無我夢中で走っていたら、気がついたら此処に来ていた。 「……くっ」  鋭い痛みが頭に走る。強い既視感を覚える。いや既視感も何も此処は宵闇たちの生まれた地、見知った場所ではないか。痛みに耐えきれずにその場に蹲る。 「大丈夫か、宵闇?」 〝大丈夫か!〟  声が二重に聞こえる。  頭の中にジオの顔が映る。  星空を背にしたジオの顔が。 「……っ!」  宵闇は勢いよく顔を上げる。うおっ、と声を上げながらジオが身体を仰け反らせた。彼は走って逃げる宵闇を此処まで追いかけてきたのだ。  視線を地面に移して宵闇は今脳裏に浮かんだモノをもう一度思い返す。  心臓がバクバクと音を立てている。  先程浮かんだ光景は、夢と同じモノだった。星空を背にこちらを見ているジオの顔。そして、夢ではそのあと一体何が見えた。  それは、散乱した瓦礫だ。  此処にも瓦礫が散乱している。  同じだ。  あの夢の中で感じた石の冷たさが蘇る。  目の前には、石でできた大きな机のようなモノがある。  違う、同じなわけがない。  此処──宵闇たちが生まれた地と、夢……ナハトの記憶に出てきた場所が、同じであるはずがない。  同じでないという根拠など何一つない。  ただ同じであってはいけないと宵闇の本能が叫ぶのだ。 「どうか、したのか?」  上から降ってくるジオの声が、恐ろしい。ジオの存在が、恐ろしい。放っておいてくれ。何故わざわざ追ってきたのだ。  懐かしさと嬉しさ、恐怖心が宵闇の中で戦う。  彼から見たジオは、口数は多い方ではないが、悪い人ではないように見える。  けれど、彼の身体はジオを拒絶している。懐かしいと、嬉しいと、恐ろしいとジオに対して感じるのは一体誰なのだろうか──ナハトなのか、宵闇なのか、宵闇自身にも分からないのだ。  目の前から気配が遠ざかる。ゆっくりと顔を上げれば、ジオは瓦礫を避けたり上ったりして、机と思われるモノに向かって歩いていた。そして、机の前に辿り着くと、おもむろに空を見上げる。 「ここは、星が綺麗だな」  そっとジオは呟いた。その声に釣られて思わず空を仰げば、夜空に星が輝いていた。  宵闇と煌夜が生まれたときも、煌夜が宵闇の従者となったときも、今と同じように星が輝いていた。
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