【第一部】第3章 不穏の再来⑤

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「此処で俺と煌夜、俺の従者だった奴が生まれた」  ポツリと言葉を溢す。何故そんなことをジオに言ったのかは分からない。いや、ジオに向けて言ったわけではないのだろう。ただ同じ星空だったから思わず言葉に出ただけ……誰に向けた言葉でもない。 「へえ、いつ生まれたんだ?」  ジオから返答がきた。そう返してきた彼もまた、深い理由などなく訊ねているのだろう。ただ意味も好奇心もなく会話を繋げるためだけに投げかけられた問い。  宵闇は立ち上がってジオの元まで歩いていく。今にも崩れそうな不安定な瓦礫の上を通るときに、「落ちるなよ」とジオに笑いながら言われた。不思議と懐かしさも恐怖心も感じなくなっていた。 「百五十年くらい前だ、俺たちが生まれたのは」  宵闇も煌夜も誰かの腹から生まれてなどいない。気がついたときには、此処で立っていたのだ。まるで初めからそこにいたかのように。名前も初めから分かっていた。知識もある程度あった。  生まれたときのことを改めて思い返すと、自身がどれだけ不気味な存在なのか思い知らされるようで、あまり良い気分ではない。 「鬼や吸血鬼と呼ばれる奴らが、どうやって生まれるか……お前は知っているか?」 「知ってるさ。けど、残念ながら俺にはちゃんと産んでくれた親がいる」  ジオは机に腰掛け、片膝を立てた。  今この瞬間にこの場所を知っているのかとジオに問いかければ、ナハトの謎は全て解けるかもしれないのに問いかけることができない。謎を解いて全て終わらせたいのに、知ることが恐ろしい。知ってはいけない気がするのだ。同時に、謎を解いたところで結局何になるのかと思ってしまう。  ナハトに身体を返すのか。  それともこのままなのか。  何がどうなれば解決したと言えるのか、全て終わったと言えるのかさえ曖昧。それなのに意欲的にナハトを知ることに一体どんな価値があるのだとつい思ってしまう。  それがナハトから逃げているということだと、知ることが恐ろしいから逃げているということだと……分かっているのに、愚かにも目を逸らす。
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