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宵闇たちは宿屋まで一言も喋らずに戻ってきた。何を話せば良いのか分からなくなったのだ。宵闇とて決して口数が多い方ではない。ナハト云々抜きにすれば、ジオとは昼間に会ったばかりの人物で、助けてもらったのは感謝するが、それ以上の思い入れはない。
「ん?」
宿屋に入ると、ざわざわと人が騒いでいる。宵闇とジオは何事かと首を傾げた。集まった人たちの中から、見覚えのある顔をした男が出てくる。そして、宵闇たちの方へ駆け寄ってくる。
彼は確か宿屋の主人だ。顔を真っ青にして酷く怯えた表情をしている。
「あっ、あの、すみません……その、あなたのお連れの方が……その、こ、殺されました……」
言葉に詰まりながらも男は最後まで言い切った。
宵闇は頭が真っ白になった。鈍器で殴られたような痛みが走る。
連れが、セーラが……殺された。一体、何の冗談だ。
強く握り締められた拳が痛い。だがその痛みが彼の理性を保たせている。
もしも宵闇が部屋にいたらセーラは殺されなかっただろうか。彼女を守ることができただろうか。
そもそも誰が彼女を殺したのだ。以前彼女を殺そうとしたレクスはこの手でその命を終わらせたはすだ。
「……セーラは、俺の連れは何処にいる?」
「お部屋の方に……」
その言葉を聞くと宵闇は部屋へと急ぐ。後ろからついてきたのはジオだけ。人間たちはただ怯えた様子で離れていく宵闇たちの背を黙って見ている。
部屋に入ってすぐ宵闇は立ち尽した。
ベッドの上に、胸から血を流したセーラの姿がある。
一歩一歩彼女に近づいていくと、途中で何かを蹴飛ばした。何だと視線と下に向ける……そこには一本の短剣。
宵闇の中に憎悪が湧き起こる。
その短剣は、誰のものだ。
それは彼自身もう分かっている。
だって、今視線の先に転がっている、あの短剣は彼の……最も大事な者の命を奪ったものなのだから。
「……レクス」
小さく呟かれた人の名前。その名を持つ者こそが、宵闇が魂の半身とも思えるくらいに大切であった煌夜の命を終わらせたのだ。
だが、レクスは既に宵闇の手でその命を散らしている。
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