41人が本棚に入れています
本棚に追加
「ははは、仕返しのつもりか」
乾いた笑いが零れ落ちる。レクスの短剣を使って、セーラを殺した。だとしたら、彼女を手に掛けた者はレクスの関係者。レクスを宵闇が殺したから、その仕返しに宵闇の傍にいたセーラを殺したとでもいうのだろう。
何故だ……何故、俺の周りにいる者たちは亡くなっていく、そんな思いが宵闇の胸に宿る。おかしいだろう。そんなに頻繁に亡くなるものではないだろう。
いや違う。宵闇の周りから消えていくようになったのは、この身体に……ナハトの身体を手に入れた後からだ。
宵闇は頭を振って、湧き上がる憎悪も、浮かび上がった疑問も、頭から追い出す。今はそんなことを思っている場合ではない。
「セーラ、すまなかった」
床に膝をつき彼女の頬を撫でる。まだ温かい。亡くなってからそんなに経っていないのだろう。悲しくても涙は出なかった。
日菜を失ったときは悲しくてナハトと同調したのに、セーラの死にはナハトは同調しない。セーラは日菜の生まれ変わりなのに何故だ。
駄目だ、今は余計なことを考えてはいけない。こんなにも余計なことばかり思っていては、まるで宵闇が彼女の死をどうでもよいことのように思っているかのように見えてしまう。
「宵闇、ここを出るぞ。俺たちに怯えてる」
ジオが宵闇の腕を掴み、彼にだけ聞こえるくらいの声で言う。わざわざそんなことせずとも誰も此処までついて来ていないだろうに、と振り返れば恐る恐るこちらを眺める人だかり。
愚かだ。怯えながらも自ら恐怖の対象へと近づくとは。ただの好奇心、怖いもの見たさ。宵闇たちには彼らを害する気がないから良いものの、もし害する気がある者ならばおそらく彼らの中の一人くらいは手に掛けていただろう。
「あいつら、やばい奴らなのか」
「……もしかしたらあの二人のどっちかがあの子を殺したのかもしれないわ」
「怖いよ」
ひそひそと人間たちは勝手な妄想を語り合う。宵闇たちが動けば彼らは一斉に黙り込み、身体を震わせる。
「好奇心で近づくなよ」
低い声で宵闇は忠告した。セーラを埋葬するまで見届けたいが、こうも怯えられると居心地が悪い。このまま彼女を置き去りにして去るのは心苦しい。だが、このままにしたとしても勝手に街の人間たちが埋葬してくれるだろう。そうだと信じたい。
最初のコメントを投稿しよう!