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宿屋を出ると人間たちの怯えた声は遠のいていく。幸いまだ夜は明けていない。だから、宿屋にいた者たち以外には、まだセーラの死は伝わっていないのだろう。
とはいえ、伝わるのは時間の問題だ。夜が明ける前に街から出て行った方が良い。
「悪かったな、巻き込んで」
「は? 別に気にしてねぇけど」
いきなり謝る宵闇にジオは一瞬戸惑った。だが、すぐにその言葉の意味を理解して笑みを浮かべた。
「似ているな」
「誰に?」
「煌夜に、俺の従者だった奴に」
唐突な感想だ。恐ろしいだの何だの感じていた者と、自身の従者を似ていると何の前触れもなく感じてしまう時点で、宵闇は多少なりとも混乱しているのだろう。けれど一度似ていると思うと、だんだん似ている部分が浮き上がってくる。
煌夜はジオと違って口数が多い。だが、雰囲気が、気遣いの仕方が何処となく似ているのだ。
本当にジオが……彼の目的が分からない。
何のために宵闇と行動を共にし続ける。
確かに偶然巻き込まれただけのようにも見える。
だが、本当にそうなのだろうか。
宵闇から離れるチャンスなど幾らでもあったはずだ。それなのに今もなお共にいる。
「……従者に、ねぇ」
「不快にさせたなら悪かった」
幾ら似ていると感じても、ジオには煌夜のように誰かに尽くすイメージはない。従者と似ていると言うのは侮辱に聞こえたのかもしれない。
「別に気にしねぇけど。他人の評価に興味ねぇし。……ただその従者って奴が今どこにいるんだろなって思っただけだ」
「煌夜はもう、いない」
一度消したはずの憎悪が再び込み上げてくる。もうその憎悪の対象はいないのに。それでも憎しみは決して消えない。
いけない。憎悪に呑まれてはいけない。
頭を振りかぶって忘れようとする。忘れることなどできはしないのに。
とぼとぼと足を進めていると、路地に入っていく人影が目に映る。普通であれば、さほど気にも留めなかっただろう。
だが、その人影は宵闇に印象付けるには十分すぎるほど、見覚えのあるものだった。
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