19人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
蘇った記憶にレクスは眉を顰めた。思い出したくもないのに鮮明に残っている。クロと初めてあったあの日の記憶が。
「……なぜあいつは、クロは宵闇に執着する……」
ポツリと呟いた言葉は暗闇の中に消える。こんなに暗かっただろうかと疑念を抱くと同時に身体が動いた。レクスが先程までいた場所には、黒い影がユラユラと漂っている。暗さを感じたのはこの影のせいだ。
「お前も宵闇を知ってるのか」
低く発せられた言葉。
細められた青い目。
闇に紛れそうな黒い外套。
そして、青年の周囲には寄り添うように黒い靄が漂う。
「……ジオ」
「質問に答えろ」
「知ってる」
嘘を言う必要はない。嘘が通じる相手でもない。それに、別に殺されても構わない。
「さっきの男は誰だ」
「クロ。あいつが何なのかは俺も知らない」
黒い靄が消え、黒い影が霧散した頃には、青年──ジオの姿はなかった。レクスから得られるものはこれ以上ないと判断したのだろう。
ジオに殺気を向けられても恐ろしいとは感じない。彼が弱く見えるわけではない。彼の、ジオの怒りも殺意も決して間違ってはいないからだ。
「……俺は、何人も……殺したんだ……」
悲痛な声が零れ落ちる。後悔しても過去は変わらない。分かっている……分かっているのだ、それでもレクスは過去を振り返らずにはいられない。いっそのこと、完全に狂ってしまえば良いのに。そう思って、あのとき宵闇を殺したいという気持ちに逆らうのをやめたのに。
なのに、結局生かされてしまった。
我に返ってしまった。狂気に染まりきることができなかった。
重い足を前に進める。何処へ向かえば良いのか分からない。けれど、足だけは動いていく。
最初のコメントを投稿しよう!