【第一部】第4章 怒涛の悲劇①

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【第一部】第4章 怒涛の悲劇①

 曇天の空の下、宵闇とジオは橋の中央で立ち止まっていた。道行く人たちが二人を不思議そうに一瞥する。 「なあ、何で立ち止まってんだ」  ジオが不思議そうに宵闇に問いかける。宵闇はおもむろに口を開く。 「此処で、日菜が亡くなったんだ……それで、日菜はセーラに生まれ変わった」 「……は?」  ただ呆然とした表情をするジオの姿を見て、宵闇はジオと日菜は無関係かと心の中で呟く。ナハトとジオに関係があるなら、もしかしたらと思ってみたがどうやら当てが外れたようだ。 「なあ、日菜ってどんな子?」  ジオは真剣な眼差しで宵闇を見つめる。ただの興味本位で聞いている様子ではない。しかし、どんな子と聞かれても返答に困る。宵闇と日菜が会った回数はたったの三回しかない上に、短い時間しか会うことはなかった。 「日菜は旅芸人の一座の子だ、どこの一座か知らないけど」 「見た目は?」  宵闇は眉根を寄せる。ジオが何故そんなことを聞くのかは分からない。けれど、興味本位でないと感じられる以上、答えないという選択肢は宵闇にはなかった。 「癖のない真っ直ぐな黒髪で……長さを俺と同じぐらいだったな。目も黒くて、服は俺が会ったときは淡い朱色の着物だった」 「……そうか」  そう呟いて俯いたジオに、どうかしたのかと問おうとしたとき。  鋭い殺気を感じた。  その瞬間、宵闇は刀を引き抜く。  甲高い金属音が鳴り響き、刀と刀がぶつかり合う。  血のように赤い髪をした少女が憎悪に満ちた表情で宵闇を睨む。  道行く人たちが「何事だと」騒ぎ立て始める。こんなこと前にもあったなと宵闇は顔を引き攣らせた。見知らぬ少女から恨みを買うような真似した覚えはないが、一体これはどういう状況なのか宵闇にも理解が及ばない。 「姿形が少し違うけど、間違えなくお前だ! あたしの仲間を殺したのは!」  その言葉が発せられた途端、周りにいた人たちは蜘蛛の子を散らすように去っていく。その様子を見て宵闇は溜息をつく。ジオはこの状況をどうしようか見守っている。呪術とかいうあの不思議な力はあまり人前で使いたくないのだろう。
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