【第一部】第4章 怒涛の悲劇①

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   * * *  森の中に入ると、宵闇は走るのをやめた。そこからはゆっくりと足を進める。行き先は宵闇が、宵闇と煌夜がかつて住んでいた場所だ。 「さすがにもう誰もついてきてなさそうだな」  ジオは後ろを眺めて、一息ついた。途中まで何人か興味本位でついてきていたが、此処に来るまでに追うのを諦めたようだ。 「なあ、ジオ……聞きたいことがある」 「何でも聞いてくれ」  驚いた様子もなく笑うジオに、一瞬聞くのを躊躇った。けれど、もう覚悟は決めたのだ。逃げないと、ナハトを知ると決めたではないか。 「ナハトを知っているのか?」 「……ああ、知ってる」  ほんの少し間を開けてジオは答えた。懐かしむように遠くを見つめる。  やはり夢に出てきた人物はジオであったのか。ならば、ナハトはこの世界にいたということになる。 「なあ、俺も一つ聞いて良いか」 「ああ」 「お前はこの世界が壊れてると思うか?」  緩慢な動きでジオは首を宵闇の方へと向ける。鋭い視線が宵闇を貫く。嘘など端からつく気はないが、その目は、嘘は許さないと言っているように見えた。 「……何を、言っている」  この世界が壊れている、そんなことがあるのだろうか。けれど、壊れていないと言い切ることができなかった。この世界の違和感には心当たりがあるからだ。  夜の回数が少なくなった。これは明らかにおかしい。  だが、ジオが言いたいのは夜の回数のことではないと宵闇の直感が叫ぶ。そして、その真相を聞いてはいけないと、宵闇の中の何かが警鐘を鳴らす。 「俺は百五十年前から、この世界は壊れてるって思ってる」  ジオの顔から表情が消える。ゾクッと寒気を感じる。一体彼は何を言いたいのだ。  百五十年前。それは宵闇と煌夜が生まれた頃だ。正確に百五十年前かは微妙だが、大体それくらい前に生まれている。  ガサッと草が踏む音がすると何処からか光が差し込んでくる。いつの間にか、村についていた。光が差し込んできたのは晴れてきたからだ。 「……悪い、ちょっと頭冷やしてくる」  自嘲的な笑みを浮かべてジオは来た道を戻って行った。宵闇は彼を追いかけることはできなかった。
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