【第一部】第4章 怒涛の悲劇①

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   * * *  六畳ほどの大きさの小屋が森の中にポツンと佇んでいる。木でできたその小屋はきちんと手入れをされているようで、外装に汚れが見当たらない。  その中に一人の少女が躊躇いもなく入っていく。彼女は先程宵闇を、仲間を殺した犯人だと勘違いして襲った少女だ。 「クロさん!」 「また来たのですか、椿(つばき)」  クロは何をするわけでもなくただベッドに腰掛けて、虚空を見つめていた。少女が、椿が入って来なければ、そのまま虚空を見つめ続けただろう。 「今日もまた人違いだった」  椿は残念そうな顔をする。彼女とクロの出会いは斬新なものだ。椿は以前クロを、仲間を殺した犯人だと思って襲い、先程の宵闇のように人違いだと言われたのが彼らの出会いだ。そのあと、クロに懐いて椿が勝手に彼のところに押しかけている。  何故懐いたのかは椿自身よく分かっていない。こんな不思議な場所で暮らすクロに興味があったからかもしれない。 「もう諦めなさいと言ったでしょう。危険ですからやめておきなさい」 「ふふふ、さっきお兄さんに同じこと言われた」  椿は笑いをこぼす。クロから忠告されたのはこれが初めてではない。出会ったときから何度も忠告されている。それでも彼女は無謀すぎる犯人探しをやめなかった。  彼女にとって日菜は同じ一座の人間であっても、会ったことすらない見知らぬ人だ。なのに、犯人を見つけたいと思ったのだ。一座の人たちはやめておけ、と言っていたが、彼らの制止を振り切ってきた。 「けど怪我がなくて良かったです」 「優しい人だったよ。その人の名前は分かんないけど、人違いで襲っちゃった人は宵闇って呼ばれてたよ」  ただの世間話にしては内容がお世辞にも良いものとはいえないが、彼らにとってはこれが普通であった。  いつもならこれからまだ話を続けるはずだが……今回は違かった。 「すみません、椿。俺、これから人と会う約束があるので、今日はもう帰ってくれませんか」  珍しいと思いながらも迷惑をかけるのは良くないと思って、椿は小屋を出ていく。迷惑といえば、人違いで何度も誰かを襲うのも迷惑だろうと突っ込まれそうなものだが、それを指摘する人たちは今彼女の周りにはいないのだ。
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