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「……ジオ、ありがとう」
「お前がいきなり変なこと言い出すからビックリしたぜ」
髪をかき上げて、ジオは息を吐き出す。宵闇が湖を探そうと立ち上がったところで、声が聞こえた。
「行かせるわけにはいかないんです」
「お前は!」
扉の前に立ち塞がる一人の青年。
癖のある黒髪。髪で隠された左目。光のない右目。頬には黒い羽。彼の手には青龍刀が握られている。
何故青年が何処か行こうとしていることを知っているのか、行かせないようにするのか、宵闇は分からなかった。だが、止めようとする者がいるということは、そこに行けば何かあるということではないのか。
「おい、宵闇。お前、どこか行こうとしてるのか」
「……ああ」
「なら、行け!」
叫び声と共にジオの周りから黒い靄が現れる。そして、密集した靄は黒い影となり青年──クロに襲いかかる。
クロが扉の前から動いた瞬間に、宵闇は外に飛び出した。急に出てきた彼に、村の仲間が「どうした?」と問いかけてきたが、それに答えることなく宵闇は走った。
走って、走って、走って……ただひたすら森の中を走り続けた。湖の場所など分からない。この森の何処かにあった、それだけしか分からない。だから、森の中を全て回って探すしかない。
足が縺れて木の根に躓く。
「……痛っ」
勢いよく転んだ宵闇は身体に走った痛みに顔を顰める。手足に力を入れて、立ち上がろうとしたとき。
「あっ……」
視界の端に湖が映った。水面が僅かに光っている。あのときの湖だ、間違えない。
一瞬ふらっと身体を傾かせながらも湖に駆け寄った。そこには人の形をしたモノは沈んでいない。宵闇がそれを奪ったのだ、あるはずもない。
水の中へと足を進めれば、足元から冷たさが広がっていく。そして、最後に顔が水の中に入っていく。
〝すまなかった〟
誰かの声が聞こえる。
呼吸ができない。意識が保てない。
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