【第一部】第4章 怒涛の悲劇②

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   * * *  黒い影が青龍刀に引き裂かれ、消える。クロは一気に間合いをつめて、青龍刀を振り翳す。それよりも一瞬早くジオが後ろに飛び退くが、肩に浅い傷を負った。  ジオは肩の傷を抑えながら再び靄を集結させる。影となった靄はクロに襲いかかる。それでクロを倒せるはずがない。結局、影は引き裂かれて消える……はずだった。 「くっ」  青龍刀に影が纏わりつくだけで、斬れなかった。硬さが先程とは全然違う。鋼鉄のように硬い。それでも、斬れないほどではない。  力任せに影を斬ったところで、背後で空を切る音がした。背中に痛みが走る。 「何故、邪魔をするのですか!」  クロは背後の敵に向かって、青龍刀を振り回した。  反応が遅れたその敵は肩から腹にかけて斜めに深い傷を負った。 「レクス!」  ジオが声を荒げた。反撃しようともう一度影を生み出そうとするが、それよりも早くクロが彼の目前までやってくる。その存在を認知したときには既に青龍刀が胸に刺さっていた。 「何故邪魔をするのですか」  クロは同じ問いを二人にぶつけた。彼の背後でレクスが膝をつく。  レクスは小屋にクロがいないと気づき、彼の行方を探していた。そのとき、宵闇がこの家から飛び出してくるのを目撃し、何かあったのかと陰から見守り、クロを倒す機会を窺っていた。  だが、その結果がこれだ。一体何の役に立ったのだろうか。 「……はは、邪魔をしてるのは、どっちだよ……。はあ、はあ……俺は、俺たちは、あるべき形に、戻そうと……してる、だけだ」  自ら青龍刀を無理やり引き抜きクロを睨みつける。傷口からは血がどんどん流れ出てくる。それでもジオは気丈に立ち尽くす。  その姿がレクスには勇ましく見えた。まだ負けてはいないのだ。よく見るのだ、クロの姿を、クロの表情を。  今までの彼とは違う……今のクロは感情をあらわにしている。その瞳には焦りが宿っている。
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