19人が本棚に入れています
本棚に追加
百五十年前にこの世界はおそらく消滅した。
世界が崩れていく様をジオは覚えている。
だが、気がついたときには何故か生きていた。
おかしな夢でも見たのかと思ったが、それからというもの世界がおかしくなった。
まず、今まで発展していたはずの文明が一気に衰退していた。別の世界にでも迷い込んだ気分だった。しかし、見覚えのある顔ばかりで、なのに彼らは世界が消滅したなど欠片も信じない。
「……でも、人間と人ならざる者が……殺し合わなくなったのは……嬉しかったな……」
人間と人ならざる者が争うのは当たり前の世界だった、アルゼイラルドのような土地は稀有であった。だが、あの現象が起きてからというもの、人ならざる者の大半は狂気も殺意もなくし、まるで牙を失った獣のように大人しくなったのだ。
「……ああ、でも、あれは……恐ろしかったな……」
彼はこの世界に時計ができたときのことを振り返る。あのとき、完全に世界がおかしくなったと確信した。
ほんの少し前まで太陽で時間を推測していた連中がある日突然時計を作り出した。しかも、彼らは以前から時計を作っていたというのだ。
そんな馬鹿げた話があるわけがない。そもそも時計など、世界が消滅する前──百五十年前にすら存在していなかったのだ。そんなものが急に生み出されるなどおかしいといわずに何という。
この世界は異様なほど、文明の進みが速いのだ。それをおかしいと誰も感じない。それに気づいたときからジオは世界を終わらせると誓ったのだ。
それがこの世界に生きる何千万という人の命を奪うものであると分かった上で、彼は成し遂げると覚悟を決めていた。
これで、宵闇を行かせることで本当に終わらせることができるのかは分からない。けれどクロがあれほど焦っていたのだ。おそらくは宵闇はこの世界にとって要なのだろう。その彼を守ろうとしているのがクロといったところか。
「もう、終わりに……してくれよ……」
ジオはゆっくり目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!