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【第一部】第4章 怒涛の悲劇③
* * *
ふわふわと身体が浮いている感覚がする。何も見えない。此処は何処だ。
誰かに優しく手を引かれる。誰だ……誰がそこにいるのだ。
〝宵闇〟
懐かしい声がした。二度と聞くことはないと思っていた声が。
黒、白、黒、白と視界を覆う色が何度も変わり、そして強い衝撃を受けると同時に視界が鮮明になる。
「よお、久しぶりだな」
石でできた大きな机のようなモノに一人の青年が腰掛けていた。辺りには瓦礫が散らばっている。
「……煌夜」
何故彼が此処にいる。
それに此処は彼らが生まれた地。
湖に入っていったはずなのに何故こんなところにいるのだ。
「……此処は、死後の世界か?」
その言葉を聞いた途端に煌夜が大笑いする。宵闇は顔を引き攣らせる。
「ははははは、まさか。お前から、ははは、死後の世界なんて言葉……聞くなんてな」
笑いを収めるどころか腹を抱えて笑い出した煌夜の頭に拳骨を振り下ろした。呻き声を上げて煌夜は頭を抱える。
その姿を横目に宵闇はもう一度辺りを見回す。やはり彼らが生まれた地にしか見えない。だが、一体何がどうなっている。
亡くなったはずの煌夜もいる以上……死後の世界だと考えるしかないではないか。
「此処は何処なんだ」
「あー、オレも知らねぇ。それよりお前、元の姿に戻ったんだな」
元の姿に戻る。まさか戻っていると彼は言っているのか。確かめようにも手元に鏡などない。辺りにも姿を映せるようなものはない。
仕方なく宵闇は自身の髪に触れる。
サラリと指が髪を梳く。癖のない真っ直ぐな黒髪。
ナハトの身体を手に入れたときとは違う……これは元の宵闇の身体だ。
「……戻っている」
「良かったじゃねぇか」
確かに良かった。良かったが、結局此処が何処だか分かっていない。しかし、何処であったとしても、もうどうでも良いのかもしれない。
再び煌夜に出会えたのだから。
不思議なものだ。あれほど彼を失って、悲しみに暮れたのに、二度と会うことはないと思っていたのに、いざ会うとこうして自然に話している。
もっと驚くと思っていた。何で死んだ、と責め立てると思っていた。嬉しくて涙が流れると思っていた。
「お前と会えて、良かった」
宵闇はポツリと呟いた。
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