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「……これは」
手鏡を持つ手が震える。違う、湖に沈んでいたモノはこんな姿をしていなかった。けれど、自分の姿でもない。一体この姿は何だ。
「お前が湖で見た身体と一緒か?」
煌夜は静かに問いかけた。一瞬宵闇が震えたのを彼は見逃してはいない。湖で見たモノと今の彼の姿は異なるものだったのだろうと分かっているが、彼の口からどう違うのかが聞きたかった。その違いが何か解決の糸口になるかもしれないのだ。
「服は一緒だけど、髪はもっとふわふわした感じだったし、色ももっと青っぽかった。それに目だって、左目は元々の俺のものだ」
湖に沈んでいた身体は目を閉じていた。だからどんな目をしていたのかは分からない。だが、宵闇は自身が本来持つ瞳が珍しいものだと知っている。その珍しい瞳と同じものを持つ者が他にいるとは考えにくい。しかも、髪の色や髪質は明らかに違う。それならば、今の宵闇の身体は、湖で見た身体と似ているが違うモノだということになってしまう。一体どういうことだ。
「何がどうなってんだか。ってか、やっぱりその左目、お前のヤツだよな……珍しい目だし」
煌夜は宵闇の左目をじっと見つめる。見覚えのある瞳だ。長年彼が見ている宵闇の瞳にしか見えない。
「おそらく俺のもので間違いないだろう。結局何にも分からずじまいか」
宵闇は溜息をつく。流石に疲れを感じ始めて後ろに倒れ込むと、畳の匂いがする。我が家に帰ってきたのだと実感した。目を閉じると黒い世界に支配される。このまま眠れば全て夢だったとなってはくれないだろうかと、ありもしないことを考えているうちに、強烈な眠気に襲われる。本当に眠くなってきてしまった。
「今日はもう休めよ」
煌夜の声が遠くで聞こえる。身体に何かが掛けられ、温かさに包まれた。そのまま宵闇の意識は深く沈んでいった。
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