【第一部】第1章 宵闇の逢瀬①

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【第一部】第1章 宵闇の逢瀬①

 茶色い地面に作られた一本の赤い道。今もなお作られ続けているその道を歩く者の名は宵闇(よいやみ)。彼の身体からダラダラと赤いモノが流れ続け、焦げ茶色の着物は赤く染まっていく。腰まで伸ばされた真っ直ぐな黒髪には所々赤いモノがこびりつき、前を見据える金色の双眸には力強さがある。 「宵闇!」 「……嗚呼……煌夜(こうや)か……」  宵闇の身体から流れ出ている赤いモノは未だに止まる様子はない。背後から近づいてきた煌夜はそんな彼の姿に唖然とする。  目の前の光景を煌夜は受け入れることができず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。幼馴染みであり、己の主でもある宵闇が死に向かっている。彼は強かったはず……そんなに簡単に死ぬような奴じゃない。煌夜が知る彼を思い返してはそう何度も心が叫ぶ。 「お前は……何処かに……行け。もう、俺は助からんだろう」  宵闇の身体から流れ出ているのは、赤い血だ。もう既にかなりの量の出血している。助かる見込みなど欠片もない。彼は煌夜の方に視線を一切寄越さないまま、目の前にある森の中へと歩みを進める。 「あっ、待て、行くな」  煌夜は宵闇の肩に手を置き、離れていく彼を引き止める。彼が死ぬ、幼馴染みが死ぬ、主が死ぬ、そんなことがあって良いわけがない。だが、立ち止まった宵闇が依然としてこちらを向くことがない様子を見て、そっと手を退ける。 「それが……お前の……最期の望みなんだな……」  煌夜の目から涙が零れ落ちる。宵闇の最期の望みならば叶えなくてはいけないと拳を強く握り締めて、徐に彼とは反対の方向へと身体を向け煌夜は走り去っていった。 「今まで……ありがとう、煌夜」  遠ざかっていく足音を耳にしてひっそりと呟いた。力強さがあった金色の双眸は翳り始めている。歩く度に傷が痛むが宵闇は足を止めることなく、ふらつきながらも一歩一歩ゆっくりと前に進んでいった。  木の葉が散らばる地面に赤い道ができていく。そろそろ足が限界だと思った瞬間に身体から力が抜けていく。薄れていく意識の中で、最期に脳裏に浮かんだのは煌夜の姿だった。最期の最期まで思い浮かぶのはお前の姿なのかよ、と宵闇は小さく笑った。
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