【第一部】第1章 宵闇の逢瀬③

11/11
前へ
/346ページ
次へ
   * * *  拗ねた宵闇から逃げるように外に出た煌夜は薄暗い空を静かに見上げた。 「今日は夜が来たのか……」  本気で畑仕事するつもりなどなかったが、だからといって何処か行くあてがあるわけでもない。どうせ宵闇はまた何処かに出掛けたはずだ。神の身体を手に入れてからまだ数日、起きた状態の宵闇とともにいた時間はまだ一日も経っていない。しかし、以前の彼とは少し違うと分かってしまった。きっと本人もそれに気づいているはずだ。  それならば、宵闇が流れに身を任せて、その真実を解明しに行くことくらい付き合いの長い煌夜には分かる。心配しているが何を言ったところで、彼が煌夜に従うことなどない。宵闇を襲った連中が人里にいることは少々気に掛かるが、同じ相手に二度もやられはしまい。そこまで危機感のない奴ではないことくらい分かっている。  一体宵闇が死にかけたあの日に、何があったのか詳しいことは知らない。ただ人間に襲われてああなったと、その場を目撃していたという他の人間から聞いただけだ。実際に何が起きたか知りたくないわけではない。ただ少し本人の口からその話をさせるのが嫌で、もう一度血に塗れた彼の姿を思い出させられるのが嫌で、聞くことができずにいる。 「弱い、オレは……本当に昔から、弱い。あいつとは比べものにならないくらい」  脳裏に過る宵闇の姿。いつも真っ直ぐで強い意志を持っているその姿。 「一度もあいつはオレのいうことを聞かない。自分の意思でしか絶対に動かない。だからこそオレは……」  夜空に瞬く星たちに手を伸ばし、彼は追憶の彼方へと思考を走らせる。
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加