【第一部】第1章 宵闇の逢瀬①

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   * * *  遡ること数刻前──  宵闇は目的もなくただ歩いていた。空が赤く染まった夕暮れ時でもこの辺りはまだ人が賑わっている。  突如、強い殺気を感じた。条件反射で後方に飛び退く。目の前を銀色に輝く何かが振り下ろされた。それが刀だと気づくのに時間は掛からない。宵闇は腰に差してある刀を引き抜き構える。 「いきなり何のつもりだ」  怒りの籠った宵闇の声を境に道行く人たちが「何事だと」騒ぎ立て始める。彼らはまだ今の状況の危険さに気づいていない。ただの喧嘩か何かだと思い、好奇心で見てみようと足を止める者もいる。 「金を寄越せ」 「……盗賊か。よりにもよって、俺を狙うか」  金属音が響き渡る。宵闇は刃を押し返して相手との距離を取った。此処でようやく人々が只事ではないと察して、我先にと散って行った。  これからどうこの場を切り抜けようかと思った瞬間、刃が襲いかかって来る。咄嗟に受け止め難を凌いだと思ったとき、身体に衝撃が走る。視線を後ろに向けると、血に濡れた刀を持つ男がいた。  斬られはしたが、この程度なら死ぬほどでもない。そのまま宵闇は敵二人を相手取って勝つはずだった。しかし、現実は残酷なものだ。敵は二人ではなかった。
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