【第一部】第1章 宵闇の逢瀬①

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「とりあえず、煌夜と会うか。あいつ、沈んでいるだろうな」  死を覚悟したあのときに最後に会った己の従者の姿を思い出す。世話焼きすぎて常々鬱陶しい存在だと邪険に扱ってはいるが、一番頼りになるのも煌夜であると宵闇は思っている。一人で考えても混乱しすぎてどうして良いのか分からない。  湖に視線を向けるがそこに宵闇の身体はなかった。そして、何故か水面に宵闇の姿が映らなかった。 「……どうして何も映ってない……?」  近づいてみてもやはり何も映らない。湖に入る前までは映っていた気がするが、如何せん彼の意識は朦朧としていた。初めから宵闇の姿は映っていなかったと言われれば映っていなかった気もする。  この森は鬼が所有するものだ。所有すると言っても、人間から隠れ住むために勝手にこの森を隠れ蓑に扱っているだけで実際に所有しているという証明のようなものは一切ない。隠れ住むためのものである以上、何か特別な力が働いていてもおかしくはない。 「行くか」  試しに身体を動かしてみると、いつもと違う身体だから少し違和感があるが痛みは一切ない。やはり傷は残っていないようだ。おそらくは身体が変わったせいなのだろう。  煌夜に会うのなら行き先は既に決まっている。煌夜が宵闇と別れて何処に向かったのか想像するまでもない。
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