10人が本棚に入れています
本棚に追加
/183ページ
この青年は先程宵闇を助けた青年でもある。助けられたときのことをパッと思い起こすことができなかった。だから、彼の姿を見るまで夢に出てきた青年と同じ人物だと気づけなかったのだ。
ナハトは神。宵闇は人ならざる存在ではあるが人と同じ世界に住んでいる。そして目の前の青年もまた、宵闇と同じ世界に存在している。まさか神であるナハトも、人や宵闇のような存在と共に暮らしているとでもいうのか。
「目覚めたんだな、宵闇」
「何故俺の名を?」
宵闇は警戒心を強める。青年の正体が分からない。間違えなく人間でないことは確かだ。だが、あのとき使った不思議な力といい、ナハトの夢にもいたことといい、宵闇と同族と言って良いのか判断しかねる。
「セーラに聞いた。部屋にいただろ」
「……彼女は寝ていた」
「なら俺の名前もまだ知らねぇのか。ジオだ、よろしく」
ジオはグラスを傾けて赤い液体を一気に飲み干した。その赤い色から一瞬血かと疑ったが香りからしておそらく酒だろう。一呼吸間を置き、宵闇はジオの手前の椅子に座った。ジオの姿を見ていると得体のしれない恐怖を感じる。だが、心の何処かで懐かしさと安堵を覚える自分がいるのが腹立たしい。以前よりもナハトに干渉されたときの不愉快さが増している。
「で、結局何か用でもあんのか?」
用などなかった、初めは。だが、今は問い質さなければならない……ナハトとの関係を。そう思っているのに口に出た言葉は全く別のものだった。
「別に用はない」
「だったら、気配殺すなよ」
ジオの言い分は尤もだ。目的もなく足音を立てないようにわざわざ近づくなど正気の沙汰ではない。少なくとも近づこうとしたあのときは、宵闇はジオを見知らぬ他人だと認識していたはずだ。ただの悪戯でもたちが悪いだろうにジオは呆れた顔をするだけで怒ることすらしない。
手の甲に頬を乗せジオの姿を眺める。見れば見るほど夢に出てきた人物とそっくりだ。同一人物かと問えば良いのに、何も聞かずただ見ていることしかできない。このままではいけないと目を瞑ってジオと会ったときのことを思い返す。
「……なあ、あのとき使っていた力は何だ?」
「ああ、あれか。俺らは呪術って呼んでる」
ジオはビンを傾けグラスに中身を注ぐ。その様子に宵闇は眉を顰める。注がれていく液体が血に見えて不気味に感じてしまう。もし仮にそれが本当に血だと言われても驚かないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!