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セーラが目を覚ますと、ベッドの上に宵闇の姿はなかった。寝ぼけた頭は一気に覚醒する。一体何処に行ったのだと部屋を出て探しに行こうとしたところで、ベッドの脇にある机が目に入った。そこには一枚の紙切れとペンが無造作に置かれていた。
紙切れには、少し出かけてくる、と見覚えのある字で書かれていた。これは宵闇の字だ。また置いて行かれたことを寂しく思いながらも、彼の身に何かあったわけではないという事実に安堵する。
「こんばんは」
部屋にはセーラ以外誰もいないはずなのに、声が聞こえる。おかしい。恐る恐るセーラは声が聞こえた方に顔を向ける。扉の前にフードを深く被った青年が立っていた。
「……どちら様ですか?」
声が震える。此処から逃げないといけないのに足が震えてその場から動くことができない。彼女の胸の内に警鐘が鳴り響く。彼は危険だと。
何故自分はこうも何度も危険な目に遭わなければいけないのか。生きているうちに何度も命の危険に晒されるほど不穏な世界ではないのに。
「君に罪はないよ。けど、君は存在してはいけないんです」
冷たい声が彼女の存在を否定する。訳が分からない。罪はないのに存在してはいけないとは一体どういう意味だ。何故この青年に存在して良いのか決められなくてはいけない。
青年はおもむろにフードを脱いだ。そこから現れたのは、癖のある黒髪。左目は髪で隠され、出ている右目は虚ろだった。顔には黒い羽が描かれている。その姿は何処となく似ていた、彼に。
「……宵闇、様……?」
いや、宵闇ではない。確かに似ている。だが、違う。
瞳の色が違う。
それに彼はこんなに虚ろな目をしていない。
髪色は同じでも髪型は違う。
頬に黒い羽などない。
セーラは目の前の青年と宵闇の違いをいくつも頭に浮かべる。
「宵闇には生きていてもらわないといけないんです」
彼は宵闇を知っているのか。貴方は誰なのか。宵闇に生きていてもらわないといけない……それはまるでセーラがいると宵闇が死ぬと言っているようではないか。問いたいことは沢山ある。けれど、声にならない。声を発してはいけない。そんな緊張感が漂っている。
青年は扉から離れてセーラに近づいていく。
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