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「来ないで、下さい」
震える足は少しずつ、少しずつ後ろに下がっていく。駄目だ、この後ろにはベッドがある。下がれば下がるほど逃げ場を失っていくだけだ。そう分かっているには彼女は後ろにしか動けなかった。
「ごめんなさい。君は何も悪くないのに……けど、君がいてはいけないんです」
言葉だけ聞けば今の行動に後悔しているようにも聞こえなくもない。けれど、彼の目には光がない。表情も変わらない。ただ人形のように無感情な顔で、口だけが動いている。酷く不気味な姿。
セーラの足がベッドにぶつかったとき、青年はマントの内から短剣を取り出した。その短剣にセーラは見覚えがあった。レクスが持っていた短剣だ。
彼はレクスの知り合いなのか。レクスは宵闇に殺されたはずだ。敵討ちのつもりか、それともレクスの意思を継いでセーラを殺したいのか。
近づいてくる短剣がスローモーションのようにゆっくりと動いて見えた。あのときは、レクスに殺されそうになったときは煌夜が助けてくれた。煌夜は彼女を庇って亡くなってしまった。そう何度も誰かが助けてくれるなんてことあり得ない。
胸に痛みが走ると同時に意識が遠のいた。
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