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夜乃がライブ会場でファンに体制変更を告げた夜、公式サイトとSNSでもWセンター制に移行することが発表された。施行は新曲配信日からで、いつまでという表記はない。
リリカのファンは歓喜して、
〈やっと売れる、これでメジャー行ける!〉
〈今までが地味すぎた〉
などとネットに書き散らしていた。
私たちメンバーが事務所からWセンターの話を聞いたのは、発表1か月前のレッスン後に行われたミーティングでのことだ。
突然の出来事だった。
「えっ、どういうことですか!? リリカと2人でいくって」
反射的に声を荒げた私に、事務所社員の樫木は、まあまあとでも言いたげに軽く手を揺らした。
樫木は穴の空いたデニムを着た半グレのような風貌の男だが、30歳をとうに超えたドールズの運営・プロデュースの中心的なスタッフだ。
近頃はこの樫木の方針でダンスの得意なリリカをフューチャーしたアップテンポの曲が増えつつあると思っていたが、配置換えのための布石だったのだろうか。
「絶対反対です! 夜乃が単独センターだからワンマンでも動員できるようになってきたんですよ?」
私は食い下がった。
ドールズは結成以来3年間、夜乃一人をセンターに据えてやってきたのだ。イベントやライブで集客できず、物販も売れなかった頃から、ずっと。彼女がこのグループの中心なのに。
「そんな鬼みたいな顔しないでよ〜。彩夏の出番が減るわけじゃないしさ」
私を横目で見ながら樫木は苦しそうな声を出すが、これは夜乃と私に対する降格なのは明白だった。
自分とシンメで踊っていたリリカが前面に出て夜乃と並ぶのだ。
残された私は、センター2人の後ろでその真ん中に立つという、裏センターのポジションになるらしい。これはこれで美味しいと言えなくもなかったが、左右には下位の2人が同列で並ぶのだし、肝心の夜乃の姿が見つめづらくなるので断固反対だった。
私は憤然としたまま、ソファーに腰掛けていた夜乃の顔を凝視する。
彼女は無言のまま、ただ大きな瞳を物憂げに沈ませているだけだった。ショックが大きいのだろう、疲れているようにも見える。
食い入るように夜乃を見つめ続けたが、いくら視線を送っても、こちらには気付いてもらえない。
軽く落ち込んでいると、ロングの黒髪を揺らしながら樫木の話にうんうんと頷くリリカの横顔が目についたので、おまえは事前に聞いていただろうと、いらっとした。
確かにリリカの顔面は整っている。
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