わたしの推しが死んだ日

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 小さな顔に、ネコ科の動物みたいな少し吊り上がった大きな目が特徴的で、夜乃と同じ18歳だが年齢よりもぐっと大人っぽい。ファンでなくても思わず目をやってしまう天性の華もあった。 〈リリカちゃんに見つめられると妙な気分になる〉 〈吸い込まれそう……〉  などと一部ファンから称賛される魔性の目線テクニックを持ち、体つきはグループの中では最も出るところと引っ込んでいるところのめりはりがついていて、「一人だけグラドルの衣装みたいだねえ」と握手会で年配ファンにニヤつかれることもあった。  声はやや低く掠れがちで、たまに酒焼けとか病んだ犬の遠吠えみたいな声でファンを煽っている。  歌唱力がそこそこあってダンスもそれなりに上手いからみんな騙されているけれど、本当は喉も弱いしステージで歌うことに向いてないタイプじゃないかと感じる。  それに性格にも難があった。  やる気があるのは認めるが気性が激しすぎる。不満や疑問があるとすぐ運営や他のメンバーに突っかかっていくので周囲は手を焼いていた。  特に最後列で踊っている2人がいらついたリリカからダメ出しを受けることが多くて気の毒だ。センターが穏やかな気質の夜乃だったから、他のメンバーもリリカの性格に我慢できたのに。  樫木の話が途切れ、スタッフ数人がおのおの喋り出したタイミングで、リリカが私にぼそっと耳打ちしてきた。 「裏センター良かったじゃん。あんたチビだから端だと埋もれるもんね?」  地響きみたいに低い声だった。悪口を本人の前で堂々と言うからどうかしている。  むかむかしたが、こんなことでへこたれていては彼女と同じグループではやっていけない。リリカはいつもファンのいないところでは言いたい放題なのだ。 「客の反応も見ながらやっていくから。沙耶香と蘭もいいね?」  樫木が急に声を張り、うつむいていた2人にも形だけの問いかけをする。  沙耶香は樫木の汚れたスニーカーを見つめながら力なく頷き、幼い蘭には深刻さが伝わっていないのか、目をしぱしぱ瞬かせながら首をかしげていた。  入社2年目の男性マネージャー・青戸(あおと)は樫木の横で棒立ちになっているだけ。誰も異を唱える者はいなかった。  それでも私はこの人事に反対だ。  自分のことより、夜乃とリリカを横並びにすることに違和感がある。センターの価値が下がるような気がする。それはすなわち、グループの価値が下がるということだ。
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