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だが奇策を打ち出したい運営の考えもわからなくはなかった。
今は大切な時だ。まだ本決まりではないが、曲を配信するだけではなく全国的にCDを流通販売していこうという話や、アニメ作品とのタイアップ、地方公演の開催計画、現在の倍以上の規模で定期的に公演をするといった構想も漏れ聞こえてくる。
レコード会社の関係者にも何度もライブに足を運んでもらっているらしいし、今が半地下から地上へ、インディーズからメジャーへとステップアップできる絶好のタイミングだった。
メディアに取り上げてもらう機会がぽつぽつ増えてくると、リリカのようにビジュアルが突出したメンバーがいるありがたみも知った。視聴者や読者からの反応は、彼女が出るのと出ないのとでは大違いなのだ。そういう点ではリリカの力を認めている。
でもセンターとなると別だ。たとえ夜乃のおまけであっても受け入れられない。嫌だ。
だってあの場所は聖域だから。見た目がいいからって簡単に立てる場所じゃない。
例えば人差し指。
ファンがどれだけ興奮して喚き散らしている時でも、夜乃がその細くて白い指をそっと唇に運んだだけで、会場中がしんと大人しくなる。
みんなの意識が彼女と彼女の指先に集中する。
センターの夜乃が今から何を言うのか、ファンでなくても耳をすましてしまう不思議な魅力がある。
たまに奇声を発してライブを妨害しにくる頭のおかしなアンチが乱入してくることもあるが、夜乃に見つめられ、観客に囲まれながらしいっとやられると、散々目を泳がせたあと、意気消沈してしまう。
指先の動きひとつで敵をも制圧し、黙らせることができるのは、あの子しかいない。
アイドルは顔やスタイルだけではないし、歌やダンスだけでもない。もちろん色気でも、チェキの映りがいいことでも、ファンの顔や好みを丸暗記できることで評価が決まるわけでもない。技術以前の問題がある。
それはアイドルとしての存在感だ。
ただそこにいて呼吸しているだけの時でも人々を陶酔させなければならない。
声の出し方、ポーズを決める時の手の角度やりりしさ、目線の使い方、体の動きひとつとってもその人の生き様が滲み出てしまうし、中心に立つ人間としての説得力が求められるのだ。
これが俗に言うカリスマという存在ではないだろうか。
夜乃はライトを当てられる前から自らを発光させているのだ。
MCの合間に、汗ではりついた前髪を整えながら小さくほうっと客席に向かってため息をつく時、夜乃の頬の柔らかい輪郭線のふちがきらきらと眩しくなる。
あの子は勝手に光っている。
ステージ上でもその外でも、一番近くで観察し続けている私が言うのだから間違いない。
夜乃は唯一無二だ。
彼女こそが私たちメンバーを地上に引き上げてくれる存在なのだ。
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