わたしの推しが死んだ日

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「戻ってきなよ! 彼氏も子供もいなかったんだし……、ううん、いたっていいよ。今は既婚や子持ちのアイドルが存在する時代だもんね。炎上だって経緯を説明すればおさまるよ。ファンも最初は驚くだろうけど、きっと受け入れてくれる。樫ちゃんやメンバーたちには私から説得するからさ」  胸をどんと叩いて見せたが、夜乃は目を伏せてしまった。 「別にぽっちゃりでも踊れなくてもいいじゃん。そのままの夜乃でも絶対人気が出るよ。センターだって狙える。もっと丸くなったっていいし、病院行く時間も確保できるように交渉するから。ドールズに戻ってきなよ。またアイドルの小泉夜乃を見せて、ねえ」  自分でも無茶だと思いながら喋り続けた。  目の前のこの人は苦しんでいるし、戻ろうにも今のAlice Ice DOLLに夜乃の居場所なんてないのだ。  わかっている。わかってはいるけど、私は納得できなかった。 「彩夏ちゃん、ごめんね。私はもうあの頃には戻りたいと思わない」  夜乃は覚悟を決めたように顔を上げた。 「どうして。もしかしてまだ体型のこと気にしてる?」 「ううん、そうじゃないの」  真っ直ぐにこちらを見据えている。 「じゃあ、なんでよ!?」  私はいらつきながら拳で絨毯を叩いた。 「愛されていたくせに。選ばれた人間だから一番強いライトを当ててもらってたんでしょうが。みんなが喉から手が出るほど欲しがってるものを、病気だか何だか知らないけど、簡単に放り出さないでよ! こっちは死ぬ気で支えてきたのにさあ。突然逃げるぐらいなら、堂々と太れば良かったんだよ!」  私は聞き分けのない子供のように喚いた。  心身がつらいからといって、自分やファンのことを見捨ててしまえる夜乃が憎かった。  それに妬ましい。  自分にもし彼女みたいな才能がかけらほどもあれば。骨格だけでもいい、自分にもし備わっていたら。結果をもっと出せていたかもしれない、センターだって狙えたかもしれないのだ。 「失望させて、ごめんね」  夜乃は済まなそうにつぶやいた。 「たぶん摂食障害のことだけじゃない。荷が重かったんだと思う。ただ歌って踊りたかっただけなのに、人の希望になることに疲れた。いくら眩しいライトを当ててもらっても、傷ついてる人ばかりだもん。ステージの中も、外も。自分も。ファン同士で喧嘩も絶えないし、結局わたしは何を与えられたんだろうって。一瞬の達成感とか、気持ちよさだけじゃないのかって。そんな何も残らないもののためだけにファンは自分の生活を犠牲にして時間やお金をつぎ込んでくるし、人生も狂わせてる。だんだん怖くなってきたんだ」  夜乃が今さら普通の女の子みたいなことを言うので私はびっくりした。 「何を寝ぼけたこと言ってんの? だからアイドルは美しいんでしょ」
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