わたしの推しが死んだ日

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 ファンと一体化して揺れる会場。あの場所にしかない熱狂。あしたには使い所のないグッズと、残響以外何も残らない。  でも死んでもいいとさえ思えるほど強烈な、多幸感に貫かれる一瞬がある。  その時間を、場所を共有している。みんなで一緒に生きている。 「わたしは彩夏ちゃんほどアイドルっていう存在を愛せなかったんだと思う。私がやりたかったのは歌やダンスであって、アイドルじゃなかったのかもしれないね。そのことに気づきはじめてから、真ん中に立たせてもらうのが申し訳なくて仕方なかった」  夜乃は肩をすくめながら言った。その横顔についたあごの肉を見ながら、自分はまだアイドルに何かを期待しているのかと悩んだ。  愛しているのか。自分は熱望されていないのに。  明日はもう劣化しているんだろうと観察され続ける苦痛。彼らが求めているのは、リリカや円のような、選ばれた子なのに。  夜乃の背中ももうない。わかっているのに。 「深刻に考えすぎなんじゃない? ファンってけっこう冷たいんだよ」  私は手のひらでそっと頬を拭いながら言った。 「あの熱心な夜乃ヲタだったしゅん吉だって、散々運営を呪って消えたくせに今じゃ円の強火担だもん。今日もアホみたいに長文のブログ更新してたよ」  思い悩むぐらいなら、それこそ蘭のような能天気さで、ただ神輿に乗ってさえいれば良かったのだ。  私は今まで夜乃のことを、そういう恵まれた人だと勘違いしていた。 「しょうがないよ、アイドルは自分自身が商品だもん。心変わりを責めることは誰にもできない。彩夏ちゃんだって、新しい服を買ったらうきうきするでしょう?」  夜乃はあくまでもファンをかばう。  彼らからは、グループを捨て男と逃げて子供まで作った裏切り者のセンターと軽蔑されているのに。  はなをすすりながら窓の外を見上げると、さらに雨脚は強まり空が薄暗くなっていた。
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