わたしの推しが死んだ日

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「そうだ。あの子頑張ってるよ、リリカ。真ん中の才能あったわ」  私はつとめて明るい声を出した。  最初リリカは怒りっぽい暴君で、センターなんて絶対に務まらないと思っていたはずなのに……。  真ん中で揉まれ続けたせいか、変わった。  常に全体を意識しながら行動できるようになったし、ライブ中もただ愛想を振り撒くだけではなく、グループの顔としての威厳や振る舞いを意識するようになった。  性格にも大らかさが出てきて、メンバーに対する態度は以前より柔和なものとなった。練習中だけは相変わらず口が悪くてヒヤヒヤするが……。 「ここの歌い出し、いつになったら揃うんだよ!」  リリカがブチ切れても、 蘭「ほら、すぐカッカするうー」 円「リリカ姉って電気ケトルみたいじゃね?」 な「……確かに……似てますね」  などと他のメンバーも応戦するので、不思議と萎縮したり険悪なムードにはならなかった。 「お前らうっさいなあ。ほら、揃うまで練習しよー」  ぶつぶつ文句を言いながらもリリカはどこか嬉しそうだ。  ダンスリーダーは蘭が務めている。  先輩の自覚が芽生えてきたらしき蘭が、円たち2人をびしっと指導してくれるおかげで、振りが細かいところまで揃うようになってきた。  現在のドールズは厳しさと楽しさのバランスがとてもいい。その中心にいるのはリリカだ。  夜乃とは違う、私には神聖というよりは俗っぽい光り方に映ることもあるが、それでもセンターの輝きには違いない。  今やリリカは、ドールズの立派なセンターだった。
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