わたしの推しが死んだ日

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 土砂降りのような拍手の音を一身に浴びながら小泉(こいずみ)夜乃(よるの)が人差し指を唇に押し当てると、ライブ会場を埋め尽くすファンの歓声がふっと止み、静寂に包まれた。  ファンは夜乃の言うことなら行儀よく従う。  妖精みたいにふんわりした人だけど、いざステージに上がると勇ましいリーダーに変貌して、観客たちを興奮の渦に引きずり込む。センターとしての貫禄は十分だ。 「きょうはみなさんにお知らせがあります。今後のドールズに関する重大発表!」  くりっとした大きな瞳で会場の一人一人を見つめながら声を張っている。客席からおおっという野太い声が響くのと同時に、息を呑む気配があった。 「あ、不安にさせちゃった人、ごめんね? 解散じゃないから、安心して!」  夜乃がフォローすると安堵のため息と拍手がさざ波のように広がっていく。  彼女は斜め後ろにいる私を振り返ると、えへへ、といたずらっ子のように舌を出してみせた。目尻をきゅっと丸めながら微笑まれ、私は不覚にも涙ぐみそうになった。  夜乃や私たちは「Alice(アリス) Ice(アイス)DOLL(ドール)」という5人組の半地下アイドルグループのメンバーだ。  半地下というのは、地下や地底ほど無名ではなく、かといって地上波のテレビ番組や雑誌に頻繁に出たり、動員力があってホールを埋めたりできる地上や天空とは程遠い存在の、微妙な立ち位置のアイドルのことだ。  ファンからは「ドールズ」と呼ばれ、センターが夜乃、その右後ろに2番人気のリリカ、左後ろに3番人気の私が対になるように立っている。最後列は、4番人気の沙耶香(さやか)と最下位で高校生の(らん)。  私は夜乃の華奢な、でも頼り甲斐のある背中をじっと見上げながら、きょうは乗ってるな、と頷く。対角線上にいるリリカも同じことを感じたのか、らしくない神妙な顔つきで唾を飲み込むと、射るように前方を見つめていた。  夜乃はステージの真ん中で、一番明るいライトに照らされながら子供みたいにか細い腕を懸命に揺らしている。 「告知してたと思うんですけど、あしたから新曲の『狂愛モメンタム』が配信スタートになります!」  夜乃の衣装から白い脇腹がちらりと覗き、観客はここぞとばかりに歓声を上げた。 「そこで発表……。新曲から、私の隣にこの人が一緒に立つことになりました! リリカー!」  名前を呼ばれると、さっきまで固い表情だったリリカが緊張を振り払うようにぴょんぴょん跳ねながら前へ進み出た。  センターの位置で夜乃と並ぶ。  なおもファンは騒いでいるが、何かあるらしいぞと仲間内で顔を見合わせ、首をひねる者も現れた。
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