消された一番

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月曜日の朝、僕は陰鬱な気持ちで全校集会の朝礼に立っていた。 「……」 僕たちが取り合ってるあの物置きこそが『安らぎの木』だったんだ。 なんとなく気が重くなった。 染谷さんの話は凄かった。 凄すぎて発表するべきか迷ってしまった。 発表内容に生徒の死が絡むなんて重すぎる。 僕はただ校歌の違いを追及して誰よりも凄い……勝吾に勝つ発表をしてあの物置きをゲットしたかっただけなのに。 あの物置きだって本当は安らぎの木だったってことだろ。変色してて気づかなかった。 今まで切り株と知らずに僕は飲み物や荷物を置いてたことになる。 呪われないか不安だ。人の死んだ木を取り合ってたなんてゾッとする。 (わざと負けて勝吾に譲るべきか) などと卑怯な考えを浮かべ首をふっていると、視線を感じる。 (ん? ……誰だ?) 校長先生の話の最中、体育館の隅にひとりの生徒が立ってることに気づく。 男の子だ。 僕と同い年くらいの。 でもおかしい。あんな子四年生で見たことない。 それに朝礼に参加する生徒は全員学年クラスごとに並んで座っている。 男の子は生気のない顔色でずっと立ったままこっちを見ている。 ~♪ 校歌が始まった。 吹奏楽の演奏に合わせて生徒が歌をうたう。 当たり前だけど、一番の歌詞に安らぎの木はない。 振り返るとすぐ隣に男の子が立っていた。 「ひぃっ……ッ!」 悲鳴がこぼれた。いつのまにここに? “忘れないで” 青白い顔で男の子は僕に言う。 「え……」 忘れないで? 何を? “僕のこと、忘れないで” 「! ……」 “忘れないで” 「もしかして、君はカズキくん?」 『……』 それだけ言うと男の子は僕をじっと見つめて姿を消していった。 そっか。 彼の残した言葉。 カズキくんは校歌の歌詞が消されてしまったことで、自分の存在ごと消されてしまうのが嫌なんだ。 彼は“忘れないで”と言った。 じゃあ、僕にできることは。
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