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僕、五十鈴夕輝は小学校で行われる発表会で発表する題材について集めた資料を読んでいた。
僕が発表する題材は校歌について。
「A小学校の校歌、作詞作曲は染谷秀夫、校歌は一番から三番まで、歌詞にはA小学校に関するものが入ってる、……」
校歌について発表するのはクラスで僕だけだ。
集めた資料に目を通し、それをノートやメモ張に書き写す。
なんで僕がこんな張り切ってるかというと実は、発表会が楽しみだからとか目立ちたいからとか、そういう理由ではない。
僕には負けたくないやつがいる。
場所取り。
これが本当の理由だ。
僕の小学校は運動場が広く遊具がたくさんあるのだが遊びに来たときに水筒や荷物を置く置き場が少ない。水筒も土のつく地面に置きたくないし授業の教科書やノートも汚れて嫌だ。
そのなかで、僕は奥にある遊具の近くに大きな低めの台があるのを見つけた。
誰も見つけてない一番乗りだった。
昼休みに遊びに来た時ここに水筒などの荷物を置くと土に汚れない。便利で気に入っていた。
でも僕だけの穴場を奪いに来る奴がいる。
田島勝吾。あいつなんて横暴だ。
クラスで一番力持ちで体が大きいからっていつも強引で威張ってて偉そうだ。
誰も気づかなかったあの物置きの台も、僕が誰よりも早く見つけたのに勝吾は後から来て横取りした。
勝吾のやつ、僕が先に台に置いてあった荷物を全部土に落として自分の荷物を置いたんだ。
頭にきた僕は勝吾に言った。
『次の発表会で凄い発表をした方があの台をずっと使っていいことにする! 勝負で勝ったやつが使う権利があるんだ』
~♪
僕は校歌を口ずさむ。
小学校一年生のときは覚えるのに必死だったが今では歌詞も見ずに歌える。
「懐かしいものが聴こえるのぉ」
「じいちゃん」
僕の歌う校歌につれて祖父が居間にやってきた。
「校歌か。わしも昔学校で教わったな。小さい頃教わったものはいつまでも覚えてるもんだ」
そっか。
祖父もこの小学校の卒業生だ。
嫁いできた母を除いてうちは祖父も父もA小学校出身だ。
今年で創立70周年を迎えるA小学校は祖父の代からあったんだ。
「今度ね、学校の発表会があってさ。校歌について調べて発表するんだ」
「ほうそれは立派だ」
「べつに。絶対勝ちたいやつがいるからぎゃふんと言わせるような内容考えてるだけ。いつも乱暴で威張ってて人のもの勝手に奪うんだ」
「ほう。ガキ大将ってもんはいつの時代にもいるもんじゃな」
祖父は呑気に笑う。
「校歌か、どれ久々に歌ってみるか」
そう言うと祖父は校歌を歌い始めた。
朝陽にーきらめく~♪
故郷のー海の砂浜よ~♪
“安らぎの木”の~♪
「ん?」
歌詞が違う?
学校の校歌にそんな歌詞はない。
「違うよじいちゃん。音は合ってるけど違う。一番は広々と~♪ からだよ。朝陽に~なんて歌詞ないよ」
「いや、一番は朝陽にー~♪ だ。わしの学校の校歌といったらこれだった。四番までちゃんと覚えとる」
「四番ぅんん?」
うちの学校の校歌は三番までだ。
四番なんて聞いたことない。
「四番がたしかこうだ、広々とー~♪ 波打ち際のー~……」
「あ、それ一番だよ! うちの校歌の一番!」
「違うぞ夕輝。この歌詞は四番だ。一番は朝陽にー~♪ だから」
さっきから僕と祖父との会話が噛み合わない。
「じいちゃん何かの間違いじゃない? 四番なんてうちの学校の校歌にないもん」
「いや、しっかり覚えてるから間違いない。なにせ一番に書かれていた歌詞に出てくる“安らぎの木”。あの木が学校にあったシンボルだったから校歌の一番として歌われたと教わった。あるだろあ。学校に大きな一本の木が」
「ないよそんな木。学校でも見たことないよ」
「いや、たしかにあった」
こんなに頑なに言う祖父は珍しい。
祖父の言うことが本当とすれば、僕の言う今の一番が祖父の時代では四番の歌詞であり、祖父の時代の一番は今の校歌に“ない”ことになる。
その一番はどこへいってしまったのか。
もしかして、消された?
「じいちゃん。校歌を考えた人って染谷秀夫って人?」
「ああ、そんな名前だったな」
「その人今生きてる? 校歌は創立当初からあるから作者はかなり年なんじゃ……」
小学校は今年で創立70周年。
生きてて作詞作曲までしたと考えると祖父より年上ということになる。
「前に広報に載ってるのを見たぞ。そうだ、これだ」
祖父が持ってきた地域の広報だよりには作者の近況情報が書かれていた。
「ありがとう祖父ちゃん。凄い発表ができる予感がするよ!」
祖父の頃だけに歌われた校歌の一番。どうして四番まであった校歌を三番に変えてしまったのか。
消された一番に何かがあったのか。
祖父のいう“安らぎの木”というのも一番の歌詞にあったから気になる。
祖父と話した後、気になってリビングで休む父に校歌について聞いてみた。父も僕とほぼ同じ答えだった。父の頃は既に校歌は三番までだったらしい。
「僕や父さんの知らない校歌の一番がある」
僕はがぜん興味がわいた。
週末さっそく作者のもとに訪問しよう。
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