山の柘榴(ざくろ)【1】グジム視点

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山の柘榴(ざくろ)【1】グジム視点

 休暇でアリアナに向かう途中、フェタブリドの新型武装偵察ヘリに追い回され、峡谷の中をさんざん逃げ回る羽目になった。狭隘(きょうあい)な地形と相棒の卓越した運転テクニックのおかげで、かろうじて逃げ切ることができたのだが…… 「見て、杜松(ネズ)の実がいっぱい!! おじいちゃんのところに持っていこう」 「まったく、九死に一生を得たばかりだというのに何を能天気な」  呆れてたしなめようとも思ったが、星空を宿してきらめく紫紺の瞳を向けられると、無下にやめさせることもはばかられ。仕方がないので一緒に摘んで、さっさとカゴをいっぱいにしてやった。  これでおとなしく出発してくれるだろう。運転席から調子外れな鼻歌が聞こえるのはご愛敬だ。  俺は知っている。敵を振り切り「もう大丈夫」と微笑んだとき、彼の手が小さく震えていたことを。にじんだ涙を必死にこらえる姿に、一歩間違えば彼を永遠に喪っていたかもしれないと思うとぞくりと身体が震えた。そんなことになったら、俺はもう生きてはいられないだろう。  この笑顔を守るためなら俺は誰とでも戦ってみせる。思わず愛銃を握る手に力が入った。  人目を避けて山中を走ることしばし。うまく難民を装いながら枯れ川(ワジ)を利用して国境を越えてしまえばどうということもない。祖父に会いに行くと言えば、道中の検問も難なく通過できたのでいささか拍子抜けした。 「見てみて、おまけにゼジェルイェ(ナッツ入り人参ゼリー)もらっちゃった」 「相変わらずちゃっかりしてるな」  相棒がニコニコと愛想を振りまけば、街の人々も怪しむことはなく、順調に旅は進む。曇りのない笑顔が人の心をほぐすのは、どこの国でも変わらないらしい。  任務も戦いも関係なく、(イリム)の屈託のない姿を見ている時だけ、俺も本来の俺自身(グジム)に戻れる気がする。
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