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「お、お迎えが来たみたいだな」
聞きなれたエンジン音は仲間のピックアップトラックだ。はるか極東の小さな島国で作られたこの四輪駆動車はとにかく頑丈なのが取り柄で、岩だらけの山道だって苦にせず走り回ってくれる働き者だ。
「ああ、いつまでもじゃれてないでさっさと乗れ。サグルもバーズもぐずぐずするな」
俺たちの前でトラックが停まると、ずっと黙っていた俺の相棒が二人に早く荷台に乗るよう促した。戦闘員名で呼ばれたとたん、二人とも一瞬だけ硬い表情になる。
「お前たち、まだ戦闘員名に慣れてないのか? ここに来て何年も経つだろう?」
呆れたような相棒の台詞。たしかに間違ってはいない。
こいつらがこの国にやってきてもう三年。
にもかかわらず、こいつらは身内しかいない場で戦闘員名を呼ばれるのを露骨に嫌う。英雄願望が高じてシェミッシュにやってきたような若者は、嬉々として自分から名乗りたがるものなのだが。
「ハディード兄さん、そういうわけじゃ……」
「顔に出ていたぞ。よそ者に見られたら弱みと取られる。気を付けろ」
「……はい。気を付けます」
彼らにとって、戦闘員名はあくまで作戦中に、部隊の外部に対して名乗る仮のもの。いわば兵器としての識別番号のようなものだ。
産まれた時につけられた名前とは全く違う。俺たち仲間にまでそんなもので呼ばれたくないのだろう。
俺たちシュチパリア人は紛争地に生まれ育ち、生身の人間ではなく単なる数字として扱われてきた。身内しかいない場くらい、人として扱われることを望むこいつらの気持ちはわからなくもない。
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