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「ま、呼び方なんか便宜的なものだろ。作戦中でもないんだから、あまり目くじら立てなくても」
「お前もそうやって甘やかすな。いつも身内だけで動けるわけじゃないんだぞ」
無論、相棒の言う事が正しいのはわかっている。甘やかしては本人たちのためにならない。
一瞬の判断が生死を分ける戦場で、子供じみた甘えは自分達どころか仲間の生命も危うくする。
そんなことはわかっている。わかってはいるが……
「……身内しかいない場所くらい、好きなように呼んでやろうぜ? いつもよそ者を意識してばかりで気を張り詰めていては神経がもたない」
仲間しかいない時くらい、こいつら二人の心を守ってやれなければ、俺たちは戦士として何を守れるというのだろう?
戦士はただの人殺しではない。大切な人や信念を守り抜いてはじめて、胸を張って戦士を名乗れるものではないのか。
「そんな調子だから、こいつらだけで他所の部隊の支援になかなか出せないんだろう? 腕は充分なのに、いつまで経っても半人前では困るのはこいつら自身だぞ」
「まぁ、おいおい慣れるだろ。それより早く戻らんと、隊長にどやされるぞ」
ため息をつく相棒の説教を軽く流して話を切り替え、二人を促してトラックに乗った。
彼が正しいのはわかっている。二人とも技量は既に一人前の……いや、一流の戦士と言っても過言ではないのに、いまだに心の底までは兵器になりきれてないのは、この部隊が同じ部族の出身者で構成され、いわば家族のような関係を保っているせいもあるだろう。
それでも、俺はこいつらが望まない呼び方はできるだけしたくない。
この二人を狙撃手と観測手ではなく、「イリム」「グジム」と故郷の村にいた頃のように本名で呼んでやれる日が来れば良いのだが。
それまでは、何としてでも生き延びて、こいつらを守ってやらなくては。
成人を迎え、俺たちを追ってこの国へと戦いに来た今となっても、こいつらが俺にとって可愛い弟分であることには変わりない。
だから、どんな手段をとってもこいつらの事は必ず守る。いつか平和な世界で幸せに笑いあえる日を迎えられるように。
それが、戦士としての俺の矜持だ。
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