谷間の杜松(ねず)【1】イリム視点

2/3
前へ
/207ページ
次へ
「――休暇、ですか?」 「ああ。そろそろ収穫祭の時期だからな。村に戻るついでに補給してくるつもりだ。お前たちはどうする?」  隊長は僕たちと同じ村出身で四十代半ば。故郷の内戦時代からずっと戦い抜いてきた歴戦の戦士だ。  野生の鷹のように隙のない雰囲気があって、実際にみんな彼のことを「高原の鷹」って呼んでる。  僕はずっとそれを、愛称のようなものだと思っていたのだけれど、ずっと前に隊長が侵略者が乗りこんだ戦車を一人で3台も破壊した、という話を戦友から聞いて、正真正銘の鷹だったと痛感した。  どんな戦場でも必ず無傷で生きて帰る隊長には「魔法みたいに危険が向こうから避けていく」という噂もあるみたい。  でも、魔法なんてものが失われてもう何百年も経っている今、それは隊長の実力のたまものでなければ神様の加護でしかないはずだ。  にもかかわらず、僕たち部下を見やる瞳はいつだって穏やかで優しい。父さんが生きていたらこんな感じだったんだろう。物心つく前に死んでしまったから覚えていないのだけど。  厳しいけれども頼りになって、いざという時は必ず僕たちを受け止めてくれる。そんな力強い隊長に見守られて、僕たちは何とか戦い続けている。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加