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樫杖の蛇【13】イリム視点
闇夜に沈む雪原に、チカチカといくつかの閃光がひらめいた。
そこから真っ赤な光が凄まじい速さで後方から迫ってくる。
鋭い風切音にびりびりと震える雪原の大気。
「撃って来たぞ!」
音速を超える弾丸が巻き起こす衝撃波。
その暴力的な力が窓ガラスを叩いた刹那、僕は反射的に左に急ハンドルを切った。
体に染みついた戦士としての反応。
道路から即座に車を退避させ、荒れ地に飛び込んで路外の窪地に車体をうずめる。被弾面積を減らすためだ。
一瞬の判断と僅かな行動が、生と死を分けてしまう。
次々に訪れる生命の分岐点の連続……それこそが、僕たちが今いる日常だ。
「待ち伏せだ!」
相棒が頭を押さえながら鋭く叫ぶ。急制動のせいで頭を車内のどこかにぶつけたみたい。
直後。
真っ赤に輝く曳光弾が闇を切り裂き、路上を薙ぎ払うような掃射が始まった。
路面に当たった幾つかの弾丸が跳ね、赤い光の尾を引きながら、暗い夜空へと吸いこまれていく。そこは、先ほどまで僕たちが進んでいた場所のすぐ近く。
道を外れていなければ、あの銃火の中に突っ込んでいたかもしれない。
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