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「彼のサポートが俺の任務です。彼を守って救急車が安全圏にたどり着けるだけの時間を稼ぎます」
「君まで行ってしまったら、他の敵が現れた時にどう対処するんだ? 彼がなぜ黙って一人で残ったのか考えろ」
「しかし……っ!」
「ここで立ち止まって負傷者にもしものことがあれば、彼の奮闘が無駄になる。君は彼を犬死させる気か?」
俺を真っすぐに見据えるハキム師の眼光が強い。決して睨みつけられている訳ではないのに、琥珀色の瞳から立ち上る黄金の炎に焼きつくされそうだ。
野生の狼と相対しているようなプレッシャー。やはりこの人にはかなわない。
すっかり気を飲まれた俺は、無駄な抵抗をやめた。
「……わかりました」
俺が諦めたと見て取るや、ハキム師の手が俺を解放する。
獣のように鋭かった瞳がふっと緩むと、とたんにいつも通りのいたずらっぽい笑みが浮かんだ。
「よし、いい子だ。さあ、一秒でも早く救急車を送り届けて、私たちも彼の増援に向かうぞ」
「……っ! はい!!」
俺も銃を持ち直して窓から身を乗り出し、周囲の警戒に戻る。
――待ってろ、イリム。すぐに戻ってくるから……それまでは、絶対に生きていてくれ。
後方の雪原でチラチラと瞬く発砲炎に、俺は心の中で語り掛けた。
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