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樫杖の蛇【16】イリム視点
ぱたん
軽い音と共に運転席のドアが閉まると、トラックは何事もなかったかのように真っすぐに進んで行った。
おじさんの影が運転席にするりと入ったのが見える。
――グジム、ここは僕が絶対に守るから……だから、必ず救急車を無事に検問所まで送り届けて。
遠ざかるエンジン音に、僕は心の中で語りかけた。
救急車が仲間の検問所にたどり着くまで約3分。
その「たった3分間」を稼ぐのが、いま僕が果たすべき任務だ。
ゆらゆらと宙をたゆたう光の玉が、雪原をしらじらと照らしている。
僕たちの車が丸見えになったのと同じように、敵の車両だって丸見えだ。
敵までの距離はだいたい1000mといったところ。
ちょっと遠いけど……今回は敵を殲滅する必要はない。
救急車が安全なところにたどり着ければ、それだけで僕の勝ち。
暗視ゴーグルを装着して、白く輝く雪原をできるだけ身を低くして走る。
敵からは丸見えのはずだけど、奴らの標的はあくまで車両。弾丸がこちらに向かってくることはなく、はるか頭上を飛び越えていく。
立て続けに響く鋭い音。だんだん車両の近くに弾が落ちるようになってきた。
あれの狙いをこっちに向けなくちゃ。
そのために、奴らが無視できないくらいの攻撃をこちらから仕掛ける。それが、今の僕がやるべきこと。
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